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短編
5
「おーい、ボルテックス! あと三秒以内にこっち見ないとこの人間殺すぞ」
「何!? 貴様、いつの間に」
 
触手の怪人もといシャドウとの戦闘に気を取られていたボルテックスは、先ほどまでの落ち着き払った様子とは打って変わって、狼狽しながら戸羽たちの方を振り返った。

「ふふん、シャドウ殺しと噂に名高い人間にお目にかかれて光栄だよ。俺はメラン、よろしくな」
「ふざけるな、戸……その人を放せ」
「お前が言うこと聞いてくれればこの人間は解放するよ」
 
ボルテックスが殺気立つのを気にもせず、メランはヘラヘラと笑っている。そこへ、蚊帳の外だったシャドウが憤慨した様子で会話に割り込んできた。

「メラン! 勝手に俺の獲物を横取りするな! 後から来たくせに何様のつもりだ!」
「あーあー、うるさいなあ。誰かと思えばネアモネかよ。文句があるなら今ここで殺し合いでもするか?」
「そ、そういうつもりじゃないが……」
 
メランが凄むとネアモネと呼ばれたシャドウは怯えたように口ごもった。同じシャドウ同士仲間に見えても、実際はヒエラルキーが存在し、強者と弱者の間には絶対的な隔たりがあるようだ。
 
脅されたネアモネはすっかり委縮して、無言のままメランやボルテックスの様子をチラチラとうかがっている。どうせなら仲間割れでも起こして相打ちしてくれればいいのに、と戸羽が悠長なことを考えているうちに、メランは何か思いついたのかクスクスと含み笑いを浮かべた。

「あっ、そうだ。どうせならお前もボルテックスを捕まえる手伝いしろよ。暇だろ?」
「うっ、わ、分かった。手伝うよ」
 
ネアモネが嫌々従う様子を見せると、メランは上機嫌で戸羽の首元のさらに近くへ爪を突き立ててきた。

「よーし、それじゃあボルテックスに命令だ。まずその武装を解除してもらおうか」
 
ボルテックスは無言だったが、右手に握っていた刀を背中のホルダーに収めると、その場に立ちすくんだ。何の前触れもなく黒い装甲が溶けていく。
 
鎧の下から現れたのは、苦虫を噛み潰したように渋い表情をした水崎だった。

店での仕事を終えてそのままここへ来たのか、戸羽が昼間に会った時と同じワイシャツにジーンズといった出で立ちをしている。さっきの鎧は黒い腕輪に形を変え、右腕で輝いていた。

「へぇ、ホントにボルテックスの中身って人間だったんだ」
「言われた通り鎧は脱いだ。戸羽さんを解放しろ」
「この状況で俺に命令? ずいぶん偉そうな奴だなあ。それにさあ、その鎧もともとは俺たちシャドウの物だったんだよ。勝手に鎧使ってそのうえその態度、生意気だよね」
 
メランの声にはわずかに怒りがこもっていた。

「おい、お前。ボルテックスを縛り上げろ」
 
恐ろしく冷たい声でメランが命令すると、ネアモネはブルッと体を震わせ、水崎の体に触手を巻きつけた。強く体を締めつけられているのか、押し黙っていた水崎は「うぐっ」と苦しげに声を漏らす。
 
それだけでは飽き足らず、触手は服の中にまで入ってきた。ヌメついた触手が素肌を這いまわる感触に水崎は顔を引きつらせ、逃れようと身悶えていた。
 
戸羽もネアモネに散々体を弄ばれたので、水崎がどれほど不快な気分になっているのか嫌というほど理解できる。なんとか助けられないものかと見回してみるが、喉元にはメランの爪を突きつけられたままなので下手に動くことすらできなかった。

「いい格好だね。やっぱり人間ごときが思い上がっちゃ駄目なんだよ」
「うっ、くっ……! た、頼む、戸羽さんは助けてやってくれ。お願いだ」
「ちゃんとお願いできるようになったんだ。学習能力はあるみたいだね」
 
水崎はなりふり構わず頭を下げて懇願している。その姿を前にして戸羽は自分の無力さに打ちひしがれた。水崎はこの状況で命乞いではなく、他人を助けるために恐ろしい怪人たちへ哀願しているのだ。それなのに自分はここで指をくわえて見ていることしかできない。
 
無力感に飲み込まれ、今にもその場に崩れ落ちそうになっている戸羽のことなど気にもかけず、メランは嘲笑いながらさらに惨い仕打ちを水崎へ与えた。

「物欲しそうな顔だなあ。おい、ネアモネ。その触手でボルテックスの体をほぐしてやれよ」
「ク、クソ、命令ばっかりしやがって……」
 
メランに命令されたネアモネは文句を言いながらも言われた通りの行動をとる。
 
水崎の服の中で触手がゴソゴソと動き、膨らんだり引っ込んだりしていた。それも胸や股間、尻のあたりばかりが蠢いていて、あの服の下で何が起こっているのか想像するのは容易い。

「うっ、ああっ! 入ってくるな……うぅ!」
「水崎! お、おい、もうやめてくれよ。こんなことしたって意味ないだろ。そういうことするんなら俺にすればいいじゃないか。よく分かんないけど、俺って繁殖用とかそういうのなんだろ?」
 
水崎の苦しげな顔と上気したように赤く染まる肌を見ていると、戸羽はメランに懇願せずにはいられなかった。
 それに、シャドウと戦う術を持っている水崎を解放することができれば、この状況を切り抜けられる可能性も高い。
 
だがそんな考えは見抜かれているのか、はたまた最初からその気がないのか、メランは必死な顔で頼み込む戸羽を鼻で笑った。

「お前馬鹿だな。ボルテックスもお前と同じ繁殖用の人間なんだよ」
「水崎も? そんな、嘘だろ」
「信じたくなきゃ勝手にしろよ。でも俺は、お前みたいな弱そうな奴よりボルテックスの方を孕ませたいんだよねー」
 
メランはニヤニヤと笑っていた。軽い語り口だが、腹の底で蛇のように絡み合う悪意と欲望が顔をのぞかせている。メランが水崎に執着している以上、説得したところで徒労に終わるだろう。それでもなお、戸羽はあきらめきれずに土下座までしてメランに頼み込んだ。

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