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短編
4
ノートパソコンにUSBメモリを差し込み、緋礼は中に保存されていたデータへ目を通した。目的の物がちゃんと
メモリ内に存在していることを確認すると、機嫌よく鼻歌まじりにUSBメモリを取り出し、パソコンをパタリと閉じた。
 
リズムに乗ってデスクを指でトントンと叩き、緋礼はニヤニヤと締まりのない顔で離れたところにあるベッドへ目をやる。そこには大きな塊があった。
 
蠢くたびベッドの脚が悲鳴のような軋みを立てている。よく見ればそれは人間が絡み合っている姿だった。大柄な男がうつ伏せになった茂台を組み伏せている異様な光景を前に、緋礼はあくまで上機嫌だ。

「今回もよくできました。茂台君は本当にスパイとしての才能がありますね」
 
緋礼の言葉に大男の下でもがいていた茂台はピクリと反応する。

「あ、ありがとう、んっ、ございます。いっぱいご褒美もらえて幸せです」
 
背後から犯されながら茂台は息も絶え絶えに礼を言った。怯えている様子もなく、涎や涙でぐちゃぐちゃなその顔は幸せを噛み締めているように見える。緋礼からの賞賛を嬉しく思い、こんな仕打ちを喜んでいるようだった。

「フフ、お父さんからいっぱい褒めてもらえたようで何よりです」
「んぎっ、うぅ! は、はい、あっ、んふっ!」
「これ以上親子の触れ合いに水は差しませんから、私のことは気にせず二人で楽しんでいてください。お父さんも、茂台君のことちゃんと可愛がってあげてくださいね」
「分かってますよ」
 
茂台を犯している男はやや面倒くさそうに返事をした。歳もそう変わらない男を相手に父親役を押しつけられ、若干辟易しているようだった。
 
しかし茂台のマゾヒスト的な気質のおかげで、欲望のまま犯したり乱暴な扱いをしても嫌がるどころかむしろ喜ぶので、凌辱自体は楽しんでいた。
 
背後から茂台を押えつけ、激しく腰を打ちつけてたっぷりと腹の中に精液を吐き出す。後孔から陰茎を引き抜くとこれまで出してきた精液が、だらしなく開いたままの穴から漏れ出てきた。

「……やっ、抜かないで、ください。んっ、もっとぉ」
「はいはい、じゃあこっち向け」
 
ねだってくる茂台を軽くあしらい、男は力の入らないその体を反転させた。茂台は犯されている間何度も射精していたようで、股間や腹は精液まみれになっていた。そしていまだ物欲しそうに陰茎を勃起させ、待ちきれないのかそわそわと身悶えている。
 
男は茂台の足を開かせると、後孔へ一息に陰茎をねじ込んだ。

「はぐっ! うっ、うぐっ、お腹、父さんのチンポでいっぱいになってます」
「気持ちいいだろ? ちゃんと働いてきたご褒美に、お前にはもっと気持ちよくなってもらわないとな」
「あっ、はぅ、ありがと、おっ、んふぅ! ご、ございます……んっ!」
 
茂台は男の腰に足を絡ませながら情事に耽る。自分へのしかかってくる男に父親を重ね、やっと自分のことを認め、優しく接してくれるようになったことへの喜びに溺れてしまいそうだった。




茂台の様子を遠巻きに眺め、緋礼は椅子に腰かけながら興味深そうに観察を続けていた。
 
茂台は意識が朦朧としているのかたまに体をビクビクと痙攣させるばかりで、ほとんど動かず犯されていた。何かしゃべっているようだが、呂律も回っておらず喘ぎ声にかき消されるせいで判然としない。
 
だが涎まみれのその顔は幸せそのものだ。目の前の男が本当の父親ではないと分かっているだろうに、何故あそこまでのめり込むことができるのかと緋礼は不思議に思った。

「まあ、疑似的とはいえ父親と和解できたうえにトラウマも払拭できて、茂台君は幸せ者ですね」
 
緋礼のつぶやきは茂台には届くことはなかったが、その言葉を証明するかのように茂台は幸福の絶頂で数多の快楽にのまれていた。
 
父親役の男はただ緋礼の命令に従っているだけなので、茂台の愛情は一方的なものだ。傍から見ればそれは滑稽そのもので、緋礼を楽しませるには十分な見世物だった。
 
緋礼は足を組み直し、茂台が気を失うまでじっくりその姿を眺めていようとしたが、そのひと時を邪魔するように無機質な電子音が鳴った。机の上に置きっぱなしだった携帯がバイブレーションとともに緋礼を呼び出している。
 
気分を削がれながらも緋礼は電話に出た。

「もしもし……ああ、あなたですか。茂台君なら今取り込み中なので後にしていただけますか? 急いでると言われても……分かりましたよ。それじゃあ本人に代わるので待っててください」
 
電話の相手は緋礼と同じ組織に属する男だった。次に茂台を送り込む企業についての話をしたいらしく、しきりに茂台と話をさせろと求めてくるので、緋礼はうんざりしながら茂台へと歩み寄っていく。

「茂台君、楽しんでいるところ悪いんですが君に電話です」
 
上に乗っている男をどかせ、緋礼はぐったりと倒れている茂台を揺り起こした。まだ幸いにも気を失ってはいなかったようで、茂台は鈍い動きながらも起き上がった。
 
緋礼から受け取ったタオルで汚れた顔を拭い、茂台はそれまで子供のようにあどけなかった顔を普段の隙のない表情へと戻し、電話へと出た。

「……俺だ。次の仕事の話か? それなら直接会って話したい……今すぐは無理だ。そこまで急ぐことでもないだろう。ああ、それじゃあ一時間後に会おう」
 茂台は通話を切ると緋礼に携帯を返した。
「もう次の仕事話ですか? あの人もせっかちですね」
「仕方ないことですから……」
「仕事ができるというのも考え物ですね。まあ、茂台君がいいというのなら私もこれ以上とやかくは言いませんが」
「俺、シャワー浴びてきます」
 
茂台はベッドを降りると、シャワールームへフラフラした足取りで行ってしまった。
 
これで部屋にいるのは緋礼と父親役の男だけとなった。その途端、それまで無言だった男は大きなため息をつきながらベッドへ座り込み、舌打ち混じりに愚痴をこぼし始めた。

「仕事絡みの時だけまともなふりするのが本当に気持ち悪いですね、あの野郎。どんな風にファザコンこじらせたらあんな変態になるんですか」
「まあまあ、そう言わないでください。茂台君も結構苦労しているんですよ」
「苦労だったら俺だってしてますよ。同じくらいの歳の男に父さんって呼ばれながら甘えられてるんですからね」
「君の気持ちも分かりますが、たとえ変態でも彼は優秀なスパイなんです。使えるうちは手放したくありません。それに、君も結構楽しんでるじゃありませんか」
 
図星を突かれた男は苦笑いでその場を誤魔化していた。
 
茂台には男を夢中にさせる才能もあるようだ。案外ハニートラップのようなことも向いているのかもしれない。
 
緋礼は今後それを活かせないものかと思いを巡らせ、奥底から湧き起ってきた愉悦を噛み締めるように味わった。

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