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短編
1
窓もない六畳半の部屋は蒸れた臭いと男の嬌声に包まれていた。病院のような白いリノリウムの床に四本足で立っているベッドの上では、大の字に拘束されている男が悶え苦しんでいる。
 
革製の目隠しに視界を奪われ、口にはギャグボールを咥えさせられ、言葉すらも奪われていた。下半身には凶悪なサイズのバイブが決して抜けないようバンドで固定されながら挿入され、機械的な振動を繰り返している。もう何度も絶頂したのか男の陰茎の周りには白い液体がこびりつき、腹まで白く汚れていた。
 
男は茂台史郎(もだい しろう)という名の産業スパイだった。新エネルギーを開発しているという右葉(みぎは)重工に潜入しその情報を盗むつもりが、あっけなく見つかってしまい捕らえられ、その企業と結託している裏社会の人間に引き渡されこんな苦痛を与えられ続けていた。
 
最初こそ単純な脅しと暴力だったのだが、気づけばこんな辱めと快楽漬けに代わっていた。茂台に暴力が有効でないと分かるやいなや、尋問担当の緋礼(ひれい)という男は責め方を変えてきたのだ。
 
実際、ずっと快楽を与えられ続けるのは逃げ場もなく、精神的にも肉体的にも堪える。本当に嫌な男だと茂台は心の中で毒づいた。
 
こうしてもう三時間は放置されていた。外界からの刺激が何もない場所で視界を封じられている茂台は、時間の感覚などすでに狂ってしまっているので、実際の倍は時が進んでいるように感じていた。
 
また体がひとりでに悶え、本人の意思など無視して絶頂する。腹筋や太ももがピクピクと痙攣しておかしくなりそうだ。 
 
おまけにそれまで我慢していた尿意がもはや抑えの利かないほど膨れ上がり、快楽で緩んだ気持ちと膀胱の隙を突いてあふれ出てくる。
 
茂台はだらしなく顔を緩めながら、尿道を伝う小便の感触に絶頂に近い快感を見出した。よがり声すら上げていた。いい大人だというのに恥ずかしげもなくおもらしをしてしまったことによる羞恥が転じて精神的な快感となり、身体的な快感と合わせて茂台を溺れさせる。
 
緋礼はきっとこの惨状を見て悪趣味に笑うことだろう。ギリギリと音が聞こえるほど歯を噛み締めて悔しさを露わにしたいところだが、今は口の中に押し込まれたプラスチックのボールが邪魔をして、悔しい気持ちを表すことすらできない。
 
代わりにくぐもったうめき声を上げ、茂台はいつ終わるかも分からない責め苦に喘いでいた。

「酷い格好ですね。いい歳しておもらししてどんな気分ですか?」
 
不愉快な声がする。暗闇が取り払われ、眼前に光があふれた。数時間ぶりに視界を取り戻した茂台は照明のまぶしさに顔をしかめ、目が慣れるまで周りの物がずっとぼやけて見えていた。しかし自分の目の前にいる背の高い人影だけは、顔が見えなくてもその不快な雰囲気だけで誰なのか分かる。
 
段々明瞭になっていく視界に映るのは、スーツを着こなした細身の男だ。眼鏡をかけ、一見普通の会社員にも見えるこの男が、これまで散々茂台を痛めつけていた緋礼だった。

「顔も酷いことになってますね。涎でベトベトになって、せっかくの男前がもったいないですね」
 
緋礼はクスクス笑いながら茂台の口にはまったギャグボールを取り、涎まみれの口元をハンカチで拭った。そして後孔にずっぷり刺さって振動しているバイブを一気に引き抜く。

「ぐうぅっ! ク、クソ……!」
「こんな機械にずーっとイかされて屈辱でしたか?」
 
バイブを抜かれた刺激で再び絶頂し、否応なく顔が緩む。緋礼は茂台のその表情が好きなようで、痣や腫れが残る顔を愛おしそうに撫で回していた。

「茂台君のような人を玩具にできるなんて役得ですね。次はもっと面白いものを見せてあげますよ」
「……頼む、もう勘弁してくれ。俺はこの件から手を引くし絶対誰にも情報を漏らしたりしない。やれって言うんなら二重スパイだってやる。だからもう解放してくれ」
「残念だけど、茂台君はまだ信用できないので駄目です」
「信じられないんだったら監視をつけてくれていい」
「君くらい抜け目のない男はそれでも危険です。どうせ適当なことを言って解放されたら、真っ先にうちと右葉重工さんが繋がってるとリークするつもりでしょう? 監視なんかつけたところで上手く逃げるだろうし意味がないですよ」
「じゃあ俺をこのままずっと監禁しておくつもりか? それとも殺すのか?」
「ちゃんと解放しますよ。そのギラギラした目が死んだようになってからですけど」
 
緋礼は扉の向こうにいる誰かに向かって、中に入るよう呼びかけた。ゆっくりともったいぶるように開いた扉の向こうには、巨大な何かがいた。
 
一.八メートルほどの高さの入り口を、身をかがめて入ってくるその巨大なものは人間だった。二メートルはあろうかという巨大な体はそこそこの肉づきもあり、体重は優に百キロを超えているだろう。
 
ニヤニヤと見下ろしてくるその男が段々と近づいて来るたび、茂台は顔を引きつらせ嫌な汗をかいていた。心拍数が跳ね上がる。気を強く持たないと情けない悲鳴すら上げてしまいそうだった。

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あきゅろす。
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