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短編

どうにか外れないものかと鎖の部分を引っ張ったりしていると、急に扉がノックされた。

セレスタンは慌てて枷から手を放し、扉のほうに目を向けた。

入ってきたのは、黒い髪を後ろに撫でつけ、顔に髭を生やした男だった。

男は何も言わず、観察するようにベッドの上のセレスタンをじっと見つめながら近づいてきた。

セレスタンはそれをにらみつけ、男が何をする気なのか見定めようとする。

男もそれを察したのか、ベッドに近づくとようやく口を開いた。

「ごきげんよう、戦場の黒い狼。鎖に繋がれた気分はどうだ?」

男の言う戦場の黒い狼とは、セレスタンに対する異名だった。

真っ黒な鎧をつけて敵を次々に討ち取っていくセレスタンを、敵の兵士たちは恐れと侮蔑の気持ちを込めてこう呼ぶのだ。

「いい訳がないだろう。お前、一体何者だ?」
「なんだ、見覚えがないのか? まあいい、では改めて、私はジョエル・クレイ。ここの砦の準司令官だ」

ジョエル・クレイと名乗る男は、セレスタンの目をまっすぐ見据え淡々とした口調で続けた。

「貴様は我が軍の捕囚となったのだよ。まさか黒い狼が流れ矢に当たって捕まるとは思わなかったな。まあ、捕虜交換の際に大金が払われるのを、大人しく待つことだ」

セレスタンは悔しそうにクレイを見上げ、罵声を浴びせかけようとした。

ところがクレイはセレスタンが口を開くよりも早く、セレスタンの大柄な体をベッドに押し倒した。

セレスタンは驚いて一瞬固まってしまうが、その間恐ろしい程の速さでクレイはセレスタンに首輪を取りつけた。

「これで狼もただの飼い犬に成り果てたな」
「だ、黙れ。お前はこんなくだらないことで、俺を辱めたつもりか?」

しかしクレイはそんなセレスタンの強がりに耳もかさず、手枷も取りつけると早く立つよう首輪から伸びる鎖を引いて促した。

セレスタンは怒りに震え、今にも飛びかからんばかりの剣幕でクレイをにらみ怒号を響かせる。

「侮辱するのも大概にしろ! お前の下種な趣味につき合わされる謂れはない! 今すぐその喉笛を噛み切ってやってもいいんだぞ」
「威勢ばかりはいいな、ここで私を殺しても事態は好転することないというのに。いいか、この砦に捕らわれているのは何もお前だけではない。貴様の仲間も同じように捕まっているのだ。貴様が我々に従う気がないのなら、その仲間の命はないと思え」

仲間の命を引き合いに出され、セレスタンは一気に冷静さを取り戻した。

そして渋々ながらもクレイの言う通り立ち上がると、首輪を引かれ導かれるままにクレイのうしろ姿を追うのだった。

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あきゅろす。
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