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短編
2
「なあ明槻(あかつき)、今日一緒に飲まないか?」
 
いつもの業務を終え、帰り支度をしている俺に話しかけてきたのは同僚の奥井友保(おくい ともやす)だった。

そういえば以前は奥井ともよく飲みに行っていたが、篝の一件があってからはさっぱりだった。

「とはいっても今月金ないから、飲むんなら俺かお前の家でだけど」
「お前のとこ、少し物音立てただけですぐ隣が文句つけてくるじゃないか。飲むんだったら俺のとこしかないけど、今は弟がいるんだよな」
「なーんだ、別に弟君くらい気にしないって。それじゃ、決まりってことでいいか?」
 
奥井はニコニコ笑いながら俺に詰め寄り、一方的に約束を取りつけると、自分も帰りの準備をすると言って鞄を取りに行ってしまった。どうにも強引に決められてしまったが、奥井には篝が行方不明になった一件で何かと心配をかけてしまったので、その穴埋めと思うことにしよう。




会社を出てそのままスーパーで酒やつまみを調達し、俺は奥井とともに帰路へと就いた。

何やらウキウキしている奥井は、どうやら明日が休みということもあって、俺の家で飲み明かすつもりらしい。あまり飲みすぎるなと俺は奥井に釘を刺しながら、アパートの鍵を開け中へと入った。

「ただいま、篝、いるか?」
「おかえりー、って、あれ?」
 
廊下の角からひょっこり顔を出した篝は、俺と一緒にいる奥井を見て驚いたような顔をしていた。

「よっ、篝君久しぶり。俺の事覚えてる?」
「えーっと、奥井さん?」
 
以前ほんの少しだけ会ったことのある二人だが、篝はちゃんと奥井のことを覚えていたらしい。それが嬉しくて仕方ないのか奥井はやたらニヤニヤしながら、今日自分がここで飲み明かすことを篝へ伝えた。

「そっか、じゃあ色々買ってきてるよな。一応晩飯作ったんだけどどうしよう?」
 
困り顔の篝は俺たちの握っているスーパーの袋を見つめている。この中には酒やつまみの他にも軽い夕食が入っていた。俺の買ってきた分と篝の作った分、それらを全部食べるにはいささか量が多いかもしれない。

すると奥井が意気揚々と名乗り出て、自分が多めに食べるから問題ないと言って、ずかずか人の家へと踏み入っていった。
 
よく言えば積極的、悪く言えば強引な奥井に篝は若干戸惑いながらも、奥の部屋へと案内する。俺は奥井の脱ぎ散らかした靴を整理しながら、そのあとに続いた。

「おー、うまそう! 篝君は料理上手だな。こんな兄貴のために作ったなんて思うと涙ぐましいね」
「うるさい、余計なお世話だ」
 
奥井に文句を言いながら、俺は机に並べられた料理へと視線を移した。大皿に山盛りになった麻婆豆腐とマカロニサラダ。律儀にラップがしてあって、冷めかけてはいるものの十分食欲をそそる匂いがする。

「ずいぶん大量に作ったな」
「えへへ、まあいいじゃん。どうせ残ったら明日の昼飯にするつもりだったし」
 
篝はそう言って麻婆豆腐をレンジで温めなおす。俺と奥井も買ってきたものを袋から出し、夕食の準備をした。数だけならずいぶん豪勢な食事だ。今日くらいは何も考えずに食欲のまま腹を満たして、いつもため込んでいる鬱憤を晴らそう。

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