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短編
9
「怪しい男が山をよくうろついている」という通報がきっかけとなり、小野井と早峰は見回りに来た警官に発見、保護された。

小野井が早峰を探すため廃屋を訪れた日から、実に一か月後のことだった。

「早峰、小野井君、あんなことがあったばかりだから、無理して話さなくていい。嫌な質問だったら、はっきりそう言ってくれ」
 
警察署内の部屋で、刑事の幹は抜け殻のような小野井と早峰を前に、緊張した面持ちで質問を始めた。

「二人を襲ったのは、二匹の犬なんだな?」
「はい、俺は角次っていう黒い犬の、早峰さんは千太っていう茶色い犬の雌でした」
「……小野井君、本当に大丈夫か? つらいようなら休んでいて構わない。今度は早峰が答えてくれ。男の特徴は何かあるか? 髪型とか、背丈とか」
「ご主人様は、髭が濃くて、背の高い人だったよ。ちょうど刑事さんより頭一つ大きかったかな」
 
質問に答えてはいるのだが、心ここにあらずといった二人の姿は、幹の目には異様に映った。

どうにも事件のことを話している二人は恍惚としている節があり、男に監禁されていた時のことを思い出しているのか、時折幸せそうな表情をしていた。

「なあ、二人は犯人の男を捕まえて欲しいか?」
 
幹の問いに、小野井も早峰も即座に首を振って否定した。だが幹がその理由を尋ねても、二人は口ごもって答えようとはしない。

その後も何度か男についての質問をしたが二人の答えは釈然としないもので、このままではらちが明かないと幹はそれ以上二人へ質問をするのをやめ、今日はもう帰ってもいいと勧めた。

二人はそれに従い、そそくさと立ち上がって部屋を出て行こうとする。だがその背中に不穏なものを感じ、幹は二人へ忠告した。

「悪いことは言わないから、個人でカウンセリングを受けた方がいい。はっきり言うが、君たちはどこかおかしく見える」
 
幹の言葉に小野井も早峰もうなずき、部屋から出て行った。しかし幹は言い知れぬ不安を覚える。

あの二人は明日にでも行方不明になって、男のもとへ自ら望んで行ってしまうのではないだろうか。警察ですら男の行方をつかめていない現時点において、その考えは馬鹿げているとしか言えないが、幹はそれを与太話だと笑い飛ばすだけの自信はなかった。
 
今にも消えてしまいそうな二人の背中を思い出し、ムカムカと込み上がってくる居心地の悪さを消すように、幹は煙草を咥えて火をつけた。

大きく息を吸い、ため息のように息を吐く。吐き出された煙は次第に空気と混じりあい、やがてどこへともなく消えていった。

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