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短編
4
いつものように、使い終わると俺は牢へと入れられる。

「体が、痛い……今日も、いっぱいやられたよ……アハハ、首絞めるんだったら、いっそのこと意識が飛ぶまで絞めてくれたらいいのにな」
「そしてそのまま一生目覚めないのがお望みかな?」
 
ブロウはいつものように軽口を叩いた。でも今日の冗談は度が過ぎている。

俺は不快感を露わにしながら険しい顔で石膏のように青白い肌をにらみ、意地の悪いことを言うブロウへ口をとがらせた。

「さすがに今のは酷いぞ。そんな縁起でもないこと口にしないでくれ」
「悪かったよ。でもこんな状況で一人生き残って、毎日酷い目に遭わされてたら嫌にもなるだろ? お前は俺たちと一緒に死んでいた方が幸せだったかもな」
 
ブロウは擦り切れたボロ雑巾のような俺の身を哀れんでいた。俺は何か言い返してやりたかったが、実際その通りなので言い返す言葉はどこを探したってあるはずもない。

「……ブロウは俺が犯されてるところ見たら失望するかな?」
「なんだよ突然。なんでお前が犯されているところを見て、俺が失望するんだよ」
「実際に見たら分かるさ。俺、犯されているのに気持ちよくなってるんだ。馬鹿みたいに尻振って、喘いで、奉仕して、仲間を殺した仇なのに」
 
気づけばいつの間にか俺の頬を一筋の涙が流れていた。あんなことをされても喜んでいる自分が悔しくて、自分の情けなさに感情がコントロールできなくなる。

ブロウはそんな俺を見て、救いようのない馬鹿だとでも言いたげにあきれ返っていた。

「痛みや苦痛に苛まれるよりはマシだろ?」

俺は頭を横に振った。

「痛みのある方が、まだ俺だってことを自覚させてくれるんだ。でも快楽はクスリでもキメてるみたいに気持ちよくなって、俺が誰なのかも分からなくなるんだ」
 
ふと今日犯されている時のことが頭をよぎった。今日は珍しく俺への暴行は首を絞めるだけにとどまり、あとはひたすら犯されケツの中の気持ちいい部分を一物で突かれていた。

頭の中に快楽物質があふれてきて、俺は快感の洪水の中に叩き込まれる。何も考えられない。自分が何者なのかも、どうして犯されているのかも、一体相手が誰なのかも分からない。

ただ快感に流されて、胸の奥が幸せに似た気持ちでいっぱいになる。
 
今になって思い返せばこれほど恐ろしいことはない。このままでは確実に俺の心は、いや、俺の自我そのものが消えてしまいそうだった。

そしたら後に残るのは薄汚い雌犬が一匹だ。怒りも憎悪も理性も失い、ただ快楽を貪るだけの存在。俺はいつかそうなってしまうのだろうか。




ある晩、初めて将軍からお呼びがかかった。

俺を気に入って生かしておいたわりに、全く手を出してこないのだから変だとは思っていたが、その理由もようやく判明した。

それというのもどうやら将軍は、ボロ雑巾のイカれた野郎を手籠めにするのが好きだというのだ。ずいぶん歪んだ性癖もあったもんだ。

この時の俺は変に正気を保っているよりも、イカれたふりをしていた方が男たちの暴行も和らぐだろうと思い、度重なる暴行で心を壊した男を演じていた。

それが予期しない形で将軍に会う機会をつくってしまったのだ。内心戸惑いつつもイカれたふりを続ける俺を、将軍の部下が二人がかりで牢屋から出す。

「ブロウ助けて! やだ、行きたくない!」
 
子供みたいに駄々をこねる俺を、部下どもは苛立たしげに小突きながら引きずっていく。俺の演技もどうやら捨てたものではないらしい。それともこいつらの目が節穴なだけなのかもしれないが。

「上手くやれよ」
 
牢屋の中で毛布に包まれたブロウが、俺に激励の言葉をかけていた。

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