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短編
2
「一体この一か月どこで何をしていたんだ?」
 
俺は心の中で膨れ上がる心配を吐き出すように、篝に問いかけた。

しかしその途端、篝は顔をうつむけ、口を堅く閉じてしまった。真一文字に閉じられた口は、一言たりとも言葉をしゃべろうとはしない。

この様子では何かあったのは確実だ。俺は心底心配して、一体何があったのかしつこいくらいに尋ね、少しでもいいから話を聞き出そうとした。
 
だが篝から聞き出せたことは何一つなく、結局俺はあきらめてしまった。

よっぽど話したくないことならば、無理に聞き出すのもよくない。きっと時間がたてば、向こうからわけを話してくれるはずだ。

俺はそれ以上篝のことを詮索するのはやめて、困り顔の篝に麻婆豆腐を勧め、久しぶりの二人での食事を楽しんでいた。




篝は俺とは違うアパートに住んでいたが、しばらくは一緒に住んでいた方がいいだろう。そういうわけで俺は布団を二枚敷いて、篝の寝る準備を済ませてしまった。

「明日から色々あるだろうし、今日は早めに寝ておこう」
「んー、待って。すぐ準備するから」
 
一体何の準備をするんだと尋ねる前に、篝は服を脱ぎだした。

露わになった肌には赤いみみず腫れが何本も走り、痛々しい印象を与えている。

俺はまさかと思ったが、どうやらこの腫れは鞭や細い棒などによる殴打の痕のようだった。

「すぐ入れられるようにするから、ちょっと待ってて」
 
篝はそう言いながら、ボクサーパンツに手をかけた。ゆっくりした動きで篝はそれをずり下すと、萎えた男性器が現れて、俺の前に恥ずかしげもなく晒される。

「なんだよそんなに見て、兄貴は俺のをしゃぶりたいの?」
 
篝の声で現実に引き戻された俺は、すぐにそれをやめさせて、手近にあった毛布で篝の裸体を覆った。

「何やってるんだ!」
「何って……兄貴とヤるための準備だよ」
 
俺の剣幕に困ったような顔をする篝は、さも当然のように言ってのけた。

実の弟が性的な関係を持とうとする。その嫌悪感に俺は顔を歪め、込み上げてくる吐き気をなんとか飲み込んだ。
 
どうして篝はそんなことを言うようになったのか、いくら尋ねても食事の時同様、篝は決して口を開かなかった。

俺にはもうこれ以上、篝に何があったのか尋ねる勇気はない。

こういうことはプロに任せるのが一番だ。明日カウンセリングの予約を取ることにして、今日は篝を寝かしつけた。

しかし時間が深夜を回った頃、俺は篝の声に起こされることになった。

「や、だ……やだ、ごめん、なさい……いや! イヤだ! もうしないから、やだ!」
 
盛大な寝言に叩き起こされた俺は、どうしたのかと隣で眠る篝を見た。

どうやら隣で眠っている篝は、苦悶の表情で顔にびっしょりと汗をにじませ、酷くうなされているようだった。

「ひっぐ、なんでも、言うこと聞くから……うぅ、やぁ、ごめんなさい!」
「おい! どうした、起きろ!」
 
強く体を揺さぶって、無理矢理篝の意識を覚醒させる。悪夢から覚めた篝はさっきとは打って変わって、涙に濡れた顔できょとんと俺の方を見ていた。

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