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短編

ある満月の晩、月明かりを頼りに藤枝清人(ふじえ きよひと)はあてどなく町を歩いていた。

茶色の髪を苛立たしげに掻き毟ると、道の脇にあったごみ箱に蹴りを入れ、鬱憤を晴らす。

清人がこんなにも腹立たしげなのには訳があった。というのも、現在高校二年生の清人は、学校での素行について親から説教を食らったのだ。

そうして衝動的に家を飛び出すと、近くに住む友人の家に泊めてもらおうとした。

ところが友人は、今日は用事があるからと言って断り、清人が他の友人に連絡を取っても、皆用事や不在などで清人を泊めてくれる人間は誰もいなかった。

「クソ! どいつもこいつも肝心な時に用事なんか入れやがって! 野宿するはめになるじゃねえかよ!」

ひしゃげたごみ箱を一瞥し、清人は再び歩を進める。気づけば家からだいぶ離れたところに来ていて、足も疲れていた。

「げぇ、なんでこんなところに来ちまったんだ? ったく、不気味だな」

そう言う清人の前には、鬱蒼と生い茂る黒々とした藪があった。この町に住んでいる清人も、もちろんこの薮の存在については知っていた。

この薮はずっと昔からあって、何故か切り開かれることもなく住宅街の中にポツンと残されているのだ。

どうしてそうなっているのかは誰も知らないが、皆触らぬ神に祟りなしとばかりにその藪には関わろうとしなかった。

そういう訳だから、薮については様々な噂が流れていた。祟りがあるだの、呪いがあるだのといった、オカルトじみた噂ばかりではあったが。

「チッ、さっさと行くか」

清人はそう言って、薮を突っ切ろうと足早に駆け出した。藪からは木々のさざめきが聴こえてきて、まるで人間のうめき声のようだ。

ふと後ろから物音がしてきた。風によるものではなく、何者かが故意に立てたような、不自然な物音だ。

清人は敏感にその音に反応し、機敏に後ろへ振り返った。だがそこには何もなく、ただ木の枝が風に揺れているばかりだった。

「なんだよ、驚かせやがって」

清人は悪態をつき、前の方へ振り返ろうとした。

しかし、その時だった。急に足元に何かが絡みついてきたかと思うと、清人は体を引き倒された。

そして体にそれが絡みついてくると、あっという間に体の自由を奪われてしまった。

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