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短編
2
部下は必死で蔦から逃れようとナイフを手にしてもがいていた。

「あがっ、がっ……!」
「落ち着け! いいか、動くなよ!」
 
バレルはすぐさま腰に下げた剣を抜き、木の上から伸びる蔦を切り裂いた。

ドサリと部下は倒れ込み、いまだ首から離れない蔦をどうにか外そうとしている。

気づけば目の前には部下の首に巻きついていたのと同様の蔦が、いくつも垂れ下がり獲物を待ち構えていた。

「おい! 誰かそいつを助け起こして、すぐにここから離れろ!」
 
バレルは剣を構えたまま背後の部下たちに命令する。これがただの魔物ではないと、バレルの勘が告げていた。

「しかし隊長は」
「お前らが逃げた後俺もすぐ逃げる!」
 
当然部下たちは隊長であるバレルを置いては行けないと反対した。

だがバレルは気迫のこもった怒号を響かせ早く逃げろと部下たちを急かし、頑なに自分はここへ残るつもりだと訴えた。

「誰かが足止めをしなければ全員がやられる! 俺のことを思うなら早く行け!」
 
苦渋の決断を下した部下たちは、馬にまたがると負傷した仲間を連れその場から走り去った。

残されたバレルは剣を構えたまま、自分を取り巻く蔦と間合いを取りつつ様子をうかがう。

どうやら見た目は蔦でもその正体は植物などではないらしく、木の陰に隠れる蔦の本体と思わしき、ブヨブヨした物体がすぐそこから覗いていた。

「クソッ、この化け物め!」
 
バレルの体を狙う蔦は恐ろしい速度で襲いかかってくる。

だがバレルは別段焦ることもなく、迫りくる蔦を見切りよく研がれた刃でそれを切り落とした。
 
切り離された蔦はトカゲの尾のようにのたうち回り、バレルは気味が悪そうに眉をひそめる。

蔦の一本や二本を切り落としたところで効果は薄いのか、まだまだ蔦は襲いかかってきた。

これでは息をつく間もない。バレルは息を切らさぬよう気を遣いながら、向かってくる蔦を切り裂いていった。


 

もう二十本は切っただろうか。あたりには蔦の断片が散乱し、悶えるように蠢いている。

襲いかかる蔦もなくなったのか、それ以上は蔦の本体も襲いかかってこようとはしなかった。

「こんなものがいるとは……あまり森の奥へは行かない方がいいな」
 
バレルは汗のにじんだ額を拭い、蔦の体液が滴る剣を振り払った。

乗ってきた馬は先ほどの戦闘に怯え、いずこかへ逃げ去ってしまったようだ。

だが頭のいい馬のこと、恐らくそのあたりを歩いていれば勝手にバレルのもとへ戻ってくるだろう。

「しばらくは歩きか。一本くらい持って帰った方がいいか?」
 
バレルはしゃがみ込んで切り落とした蔦の一つをつかみ上げ、気味の悪そうに表情を歪ませた。

よく見ればそれはタコの足のようにも見えて、なおのこと不気味な印象を深くする。
 
動かなくなった蔦の一つを持つと、バレルはこの森を抜けるべく歩み出そうとした。しかしその瞬間足に絡みつく何かが、バレルの歩行を妨げた。
 
驚くバレルは慌てて足元に目を向ける。そこにはあの切り落としたはずの蔦が、足を伝って体へ這い上がろうとしていた。

「しつこい奴だ! このっ、離れろ!」
 
蔦を振り落とそうとするがなかなか離れず、それどころか周りに散らばっていた蔦の断片がバレルのもとへと集まりだした。

さすがのバレルもこれには焦り、嫌な汗をかきながらどうにか逃げ出そうともがく。

だがいくら振り払ってもそれは離れず、手でつかもうとすればさらにそこへ絡みつき、バレルの自由を奪っていった。

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