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短編
6
手術台は今や分娩台と化していた。

いつもはサンプルを並べ切り刻んでいた殺菌済みの台の上には、サンプル代わりに腹を膨らませたサクマが乗っている。

上半身はちゃんと服を着ていたが下半身は何も身に着けておらず、申し訳程度に布がかけられているだけなので、よほど恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤にして、ひたすらヴィニー相手に気がまぎれるよう話しかけていた。

「ここに来たばかりの時は、あんたにケツの穴を見せることになるなんて思いもしなかったよ。頼むからこのことは他言しないでくれ」
「分かっているさ。しかし君の男性器は三日前測った時より三センチも縮んでいる。元に戻るといいね」
「そういうことを言うなって言ってるんだ! なんであんたみたいなタイプは決まってデリカシーがないんだ」
 
ブツブツとサクマは文句を言っている。ヴィニーはそれに平謝りしながら、体に変化はないか尋ねた。

「気分が最悪ってことを除けば何も変わりない」
 
サクマが不機嫌そうに言った。しかし変化は唐突にサクマの体に訪れた。

気に入らないようにヴィニーを見ていた鳶色の瞳は真ん丸に見開かれ、小さく揺らめきだす。

それを合図にサクマの全身は一斉に固まり、やがて悶えるように肢体を蠢かせた。

「腹の中、動き出した……! ああっ、やめろ、そんな……何してやがる、腹の中で!」
「落ち着いてサクマ。Sが産卵の準備を整えたんだ。もう少しすれば肛門を塞ぐふたを溶かして出てくるはずだ」
 
しかしヴィニーの声は届いていないのか、サクマは不明瞭な言葉をわめきながら下半身にかかる布をギュッと握った。

「く、来るな、嫌だ……うああ、やっ、来るな、来るなああ!」
 
サクマの体が水から上げられた魚のように大きく跳ねる。

あの虫がサクマの後孔にある性感帯を押し潰すように刺激しながら、狭いその穴から這い出ようとしているのだ。

前立腺に体をこすりながらその虫は蠢き、サクマもその動きに連動してもがいている。

「あっ、ダ、ダメ、頭が……熱い、おかしく、なる……っあが! ああ、そんな、出てくるなぁ!」
 
のたうち回るせいで下半身の布はずれ落ち、あられもない姿をヴィニーに晒してしまう。ヴィニーはサクマを落ち着かせようと、手を握り必死に呼びかけた。

「私がついている。大丈夫、これで死ぬことはないから安心して……」
「無理だ、こんなの……っう、絶対、おかしくなる」
 
子供のようにイヤイヤと首を振り、酷く弱気なサクマは目に涙をためていた。

肉体も精神も異様なまでに興奮し、このまま快楽に溺れていくのが怖いと、サクマの目はそうヴィニーに告げている。

虫はといえば、もう後孔の浅いところまで来ているのがサクマにも分かった。ヴィニーはサクマを励ましつつ、足元に回り込むと後孔に目を向けた。

体液が樹脂のように固まってできたふたは、虫の出す体液により再び溶かされてきたようで、溶けた蝋のように後孔から流れ出す。

すると中から這い出して来る虫の頭が見えてきた。

「Sの一部が出てきた! サクマもう少し頑張ってくれ」
 
ヴィニーはそう言って虫を捕まえるため銃のような器具を取り出した。

「あっ、あっ、イヤ、気持ち、悪い……早く出ろ、早く……ひあっ、ああ!」
 
サクマの体は引きつけを起こしたように痙攣しているが、ヴィニーに構っている暇はなかった。

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