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短編
4
「君の体をくまなく検査してみたんだが、どうも中には卵だけではなくあの虫の一部も入り込んでいるようだ」
 
サクマの横たわるベッドの隣に座ったヴィニーは、検査結果のつまった端末を弄りつつこともなさげにそう告げた。

サクマはと言えば、自分の腹の中であの虫の一部とやらが蠢いているところを想像し、顔を真っ青にして吐き気に苛まれていた。

「冗談じゃない、なんであの時すぐ助けなかった! ああクソ、見ろよこの腹! とんでもないビール腹だ!」
「落ち着いて。それで説明を続けるが、あの生物はC‐32地区に生息する昆虫型生物らしいんだ。それがこんなところまで来ているとは驚きだが……」
「そんなことはいいから俺の体はどうなるんだ! 俺の中にいるっていうあのクソ虫の一部が、腹を食い破らないって保証はあるのか?」
「だからそう怒らないでくれ。今からそれについて説明するから、ほら、ディスプレイを見てごらん」
 
ヴィニーが出した透過型ディスプレイにはサクマを襲った虫の情報が流れ出していた。氾濫する情報をサクマは力なく見つめ、うんざりといった顔をする。

「あの生物はまだ名前がつけられていないから、仮にSと呼ぶことにしよう。ハハハ、君のイニシャルからとらせてもらったよ」
 
ヴィニーの冗談は残念ながらサクマを苛立たせるだけの効果しか持たず、何も言われず舌打ちだけされた。ヴィニーは咳ばらいをすると気を取り直して解説を始めた。

「それでSのことだがね、あの昆虫型の生物は産卵する際他の生物に卵を産みつけるんだ。それも食物連鎖のできる限り上に位置するものにね」
「卵を野ざらしにするより、強い奴の腹の中に入れた方が安全ってか」
「そういうこと。そして卵が孵化する寸前宿主の中から排出されるわけだが、それまで排出孔をSの体液を固まらせたもので塞ぐんだ。そこで問題になるのが宿主の排泄物だが、これを例のSの一部が処理するんだよ」
 
説明を受けているうちに気分の悪くなってきたサクマは大げさに顔を歪ませて、憎々しげに自分のいびつな腹を見つめた。

後孔を塞ぐ忌々しいふたを取り、中の卵を残らず外へ出せればどれだけ幸せなことか、しかしその願いは叶いそうもない。

「Sの一部は産卵の時に切り離され、そして再生し独自に動き出すんだ。これは地球にいるプラナリアの再生能力と似たものによると見られるが……」
「ご講義はそこまでにしてくれ。これ以上聞いていたら吐いちまいそうだ。で、いつ俺の腹から出て行ってくれるんだ、その厄介者は?」
「うーん、過去の事例を参考にさせてもらえばそこまで長くはないよ。三日か四日といったところだね」
 
焼け石に水程度だが、それを聞いてサクマの心は多少楽になった。

少なくとも四日後には大きく膨らんだこの腹も、元の程よく筋肉のついたスリムな腹に戻るのだ。
 
しかし安堵するサクマとは対照的に、ヴィニーは手元の端末を見て顔を曇らせていた。




翌朝、自室のベッドに横たわるサクマのもとへ、ヴィニーが様子を見に訪れた。

「おはよう、気分はいかがかな。一日中寝転がっているだけというのは暇で仕方ないかい?」
「暇と言えば暇だけど……それよりちょっと気になることがあるんだ。その、笑わずに聞いてくれよ」
 
やたら念を押しながらそう言うサクマは、ヴィニーを見上げて恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

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あきゅろす。
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