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短編
5
酷い不快感の中目覚めた貴堂は、枕から頭を上げられないほど気分が悪化していた。

頭の中はぐわんぐわんと鈍い痛みが繰り返し、体中が怪我の影響で痛んでいる。

「うっ……ここどこだ? ベッドになんて寝せやがって、あのクソ野郎らしくねえ」
 
吐き気に襲われ口元を押さえる貴堂は、あたりをキョロキョロと見回した。薄暗くてベッド以外何もない部屋は窓すらもなく、まるで監禁するための部屋のようだ。
 
不自然なことはベッドに寝かされていることだけではなかった。

綺麗に包帯を巻かれ、怪我はきちんと手当てしてある。逃走どころか本居へ暴行も働いていたというのに、こんな丁寧な扱いをされると不気味さを感じずにはいられなかった。

「なんで縛ってもないんだよ……でもこれなら逃げられる」
 
全身を襲う痛みにうめき声を上げながら貴堂は起き上がり、ゆっくりと床に足を下ろした。

そしていつものように足に力を入れて立とうとしたが、どういうわけだか足に力が入らず床へと倒れてしまった。

驚いた貴堂は慌ててベッドのへりにつかまると、何度も立とうと試みるのだがどうにもうまく足に力が入らない。

それどころか足に鋭い痛みが走り、立とうとするのも困難になってしまった。

「畜生! なんで立てねえんだ、クソ! あの野郎何しやがった!」
「そんなに叫ぶと体に障るぞ」
 
突然声がすると思えば、部屋の入り口に嫌味な笑みを浮かべた本居が立っていて、頭に血の上った貴堂はその姿を見た途端いっそう激しくわめき立てた。

すると本居はそれを制止し、貴堂の足を指さした。

「だからわめくなって。足をよく見てみろよ、包帯がしてあるだろ?」
 
そう言われて貴堂は足首を見てみると、包帯でぐるぐる巻きにされたそこは血がにじんでいた。

「悪いが腱を切らせてもらった。これでお前は二度と歩くことはできない。だが俺を恨むのはお門違いというやつだ、そもそもお前が逃げ出したのが悪いんだからな。分かるか、貴堂君?」
 
本居の口から語られた事実の非道さに、貴堂はしばし罵倒するのも忘れて呆然と虚空を見つめていた。

そうしてようやく口から出た言葉は、絶望のあまり震えていて、小枝のようにか細かった。

「いくらなんでもこんなの……嘘だ、なんで……なんで殺さなかったんだよ。いっそのこと殺してくれればよかったのに」
 
頬を伝う涙を気にかける余裕すらない貴堂は、悔しさと悲しみが入り混じった目で本居を見つめていた。

すると本居はその目に触発されたのか、興奮を抑えきれぬ様子で貴堂の肩をつかみしゃがみ込んだ。

「いい目ができるじゃないか、そういうのを待っていたんだ。今まで散々手こずらせやがって、二度も煮え湯を飲まされたがそれもこのためだと思えばどうでもよくなるな。ええ? そうだろクソガキ」
 
本居は貴堂を起こして乱暴にベッドへ投げやると、顔をつかんで欲望のおもむくままに唇を貪った。

「んっ、んんっ! うっ、んぅ、ううっ!」
 
「嫌だ」という貴堂の声にならない声が力なく発せられるが、本居の心に響くことはない。

蛇のように絡みつく手は荒々しく愛撫を繰り返し、怪我を気遣うこともなく欲望を満たそうとする。

「いけ好かない舘越の野郎も、いいもの残していってくれたじゃないか。それだけは感謝しないとなぁ?」
「……あぁっ、や、やめろ、ひっ! 嫌だ、こ、こんなの、やめてくれ!」
 
だが虚しい叫びは喘ぎに代わり、どんなに悔しく思っても与えられる快楽には逆らえなかった。

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