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シリーズ
1
みんなが俺を嘲笑っている。俺が今までに手をかけた哀れな犠牲者たちが、みんなしてこの俺を笑っている。

奴らの姿は俺が殺した時のまんま、銃で頭を吹き飛ばされたり、元の顔が分からなくなるまで殴られていたり。死の瞬間を色濃く残した姿を俺に突きつけていた。

「なんだよ、面倒くせえな」
 
自分の殺した死者の群れに囲まれたって、俺の中にあるのは後悔でも恐怖でもない。ただ面倒くさくて、鬱陶しいこの笑い声から離れたいということだけだ。

でも名も知らない死者たちは俺のことを逃がそうとせず、俺を指さし嘲笑を浴びせてくる。

ふと俺はあることに気づいた。死者たちの群れの中には、俺が吸血鬼として血を吸って殺した人間が一人もいないのだ。首筋に穴を開けられ、カラカラに干からびた人間はどこを見たっていやしない。

何故だろう、殺した覚えもないような奴だって俺を囲んでいる中にいるのに。顔もはっきりと覚えている、最近血を吸って殺した人間がいないのは何故だろう。

「我々には人間の血が必要だ。君は罪悪感を覚えるタイプの人間ではないようだからあまり心配はしていないけれど、一応言っておくよ。私たちが血を吸うのは生きるため、人間が牛や豚を殺し、肉を食うのと何も変わらない。だから気負う必要は何もないんだ」
 
シュヴァルツの言葉が思い出され、俺は血を吸われた人間がこの場にいないことに納得した。ステーキを食ったからって、自分は牛を殺したと本気で悩む人間はいない。

吸血鬼にとって生き血をすすられた人間は、鉄板の上のステーキと変わりなく、ただの食料に過ぎないのだ。そいつらがここにいないのは、俺がそいつらに対して何の感情も持ちえないから。
 
それに気づいたと同時に、俺はこれが夢だということも自覚した。こいつらが俺を恨んで出てきているのなら血を吸われた人間もいるはずで、それがないのだから俺が勝手に出てくる人間を選んでいるのは明白だ。

「つまんねえ夢だな。さっさと覚めろよ」
 
いくら毒づいてもさっぱり夢は覚める様子を見せない。相変わらず死者たちは俺のことを笑っていて、血や肉を恥ずかしげもなく晒している。腐った臭いに顔をしかめ、俺はいつまでも死人の輪の中で目が覚めるのを待ち続けていた。




「いい加減起きろ、寝言がうるさい!」
 
頭にキンキン響く声を聞かされ、腹に蹴りを入れられた衝撃で俺は目を覚ました。

どうやらここは俺が気を失ったホテルではなく、荒涼とした荒地のど真ん中のようで、身を切るような冷たい風と不愉快な砂粒が俺にまとわりついていた。

俺は歯を食いしばり、見たくもなかったが声の方を見てみた。やはりそこには不機嫌な顔をしたブランがいて、俺のことを上から覗き込んでいた。

「てめえ、もっと起こし方ってもんがあるだろ」
「黙れ、下劣な吸血鬼め。僕はお前の不愉快な寝言を聞かされて気分が悪いんだ。うるせえだのなんだのって、うるさいのはそっちの方だぞ!」
「寝てる時のことなんか知るかよ。クソ、一気に可愛げがなくなりやがったな」
 
ホテルでの素直さはどこへやら、生意気ないつものブランに戻って俺は正直がっかりしていた。だが今はそんなのん気なことを言っている場合でもない。

俺のことを殺せる状況にもかかわらず、ブランがそうしないのは明らかに他の思惑があってのことだろう。その思惑は、俺を餌にシュヴァルツを釣り上げることに違いなかった。

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あきゅろす。
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