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シリーズ
6
「お前ら、そんな子供相手に二人がかりで絡んで、恥ずかしいと思わないのか」
 
俺の言葉にチンピラ二人が振り返る。つられてブランも俺の方を見るが、今立っている男が普段忌み嫌っている吸血鬼だとは少しも気づいていないようだ。

それもそのはず、俺はあの薬を飲んだせいで、地味な優男に姿が変わっているのだ。これでは気づきようがない。

「な、なんだよお前」
 
チンピラよりも先にブランが口を開き、困惑した様子で俺の方をジロジロと見た。しかし俺はそれに答えることなく、邪魔者であるチンピラどもを片づけるため駆け寄った。

「てめっ、何を!?」
 
すべて言い切らないうちに、チンピラの片割れが俺の右ストレートを顔面に受け地面に倒れ伏す。

その様子を見て慌ててホルスターから銃を引き抜こうとするもう片方は、銃を突きつける前にこめかみヘ俺のこぶしを受けて脳震盪でも起こしたのか、あっけなく意識を失ってしまった。

吸血鬼としての力を極力抑えてはいたのだが、この程度なら人間の頃の俺でも十秒とたたず倒すことができていただろう。

「大丈夫か、君。見たところまだ子供みたいだけど」
 
普段の口調を抑え、外見に見合った大人しい話し方を試みる。どうにも慣れないためそのしゃべり方はぎこちなかったが、幸いなことにブランは少しも勘づいていないようだ。

「なんだよ、別に助けてくれなんて僕は頼んでないぞ」
「なんっ……でもいいじゃないか。困っている相手を見たら助けるのが道理だろう? それに子供ならなおさらだ」
 
思わず「なんだと!」と怒鳴りそうになるのを堪え、言ってる自分でもうんざりするぐらい甘ったるいことを平然と言ってのける。

そんな俺をブランは胡散臭そうな目で見ていたが、しばらくすると警戒を解き、やけにギスギスした物言いで俺に感謝の言葉らしきものを言ってきた。

「なんだか怪しい奴だけど、一応ありがたくは思っておこう。それで、何が目的で僕を助けたんだ?」
「目的って……だから特に理由なんてないと言っただろ」
「そういうことを言う人間は一番信用ならないんだ。言っておくけど金なんて要求したってないからな。今日の食事代だってろくにないのに……」
「食事をする金もないのか? じゃあ今日はどうする気だったんだ」
 
ブランはうつむくと悔しそうな顔をしながら、自分がどれほど金欠なのか俺に教えた。そして今日はなけなしの金で何か食事を恵んでもらい、どこかに野宿するつもりだったのだと言った。

俺はその哀れとしか言いようのないブランの現状に、思わず言葉を失ってしまった。なんせ数か月前には子供のくせに俺よりも金を持っていたのだ。

いくら俺が少しその金を抜き取ったからと言って、そのせいでここまで落ちぶれるとは思えない。第一こいつなら金を稼ぐ方法なんていくらでもあるはずだ。

「一体なんでそんなことになったんだ? 君に帰る家は――」
 
俺が話していると、ブランは急に倒れかけた。俺が急いでそれを支えたため、なんとか地面に頭をぶつけることは免れたが、間近で顔を見てみればいつにも増してその顔色は蒼白、見るからに体調を崩しているようだった。

「ずいぶん酷い顔色だ。このところまともな食事をしていないんじゃないか?」
「ぼ、僕に構うな。自分のことくらい自分でなんとかできる!」
 
俺の腕を振りほどき、どこかへ行こうとするブランだが、ここで逃がすわけにはいかないので俺はそれを引き留めた。

その行為に対しブランは眉間にしわを寄せ俺をにらむ。しかしその顔には驚くほど覇気がなかった。これでは自殺どころかその前に病気か何かで死んでしまいそうだ。俺は少々強引だったがブランを無理矢理言いくるめ、近くの食事ができる店へと引っ張って行った。

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