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シリーズ
2
「貴様! それ以上私を侮辱するのは許さない」
 
いつになく感情を剥き出しにして怒るシュヴァルツに、俺は困惑を隠せなかった。

何故シュヴァルツはああも起こっているのだろう。そしていきなり現れた男とはどういった関係なのだろう。そもそもこの男は何者なのだろう。
 
俺の頭の中には疑問があふれ、パンパンに詰まっていく。

じれったくなった俺は小声で尋ねようとしたのだが、それを先読みしたかのように男は口を開いた。

「そこの彼が困っているじゃないですか。少しくらい僕のことを説明してあげようとは思わないんですか?」
「アーテルに貴様のような奴のことを教える必要はない」
「今は必要ですよ。それでは失礼して……やあ、こんばんは。僕はルーフスというしがない魔術師です。あなたの恋人とはまあ……浅からぬ仲とでもいいますかね」
 
ルーフスと名乗る男はそう言ってクスクスと笑った。いまいち要領を得ない説明に、俺の疑問はさらに増えていくばかり。

本心はもっとルーフスの話を聞きたかったが、生憎シュヴァルツの怒りがその前に頂点へと達してしまいそうだったのであきらめるしかなかった。

「何が浅からぬ仲だ。貴様は私の前に現れて邪魔をするだけだろう。この青二才、目障りだから早く視界から消えろ!」
「そんなに怒らなくてもいいと思うんですがね。それに僕に消えろと言うのは筋違いですよ。だってこの屋敷は僕の屋敷なんですから」
 
ルーフスの指が指揮棒のようにひょいと振られると、俺の懐が冷たい光を放ち始めた。光っていたのは俺の持っていた何の変哲もない硬貨で、表面にはルーフスの顔の刺青と同じ紋様が浮かんでいる。

「金というのは世間を周り、とどまることがありませんからね。僕の持っていたものがあなたの恋人の手に渡っていても、なんの不思議もないわけです」
「まさかこれでアーテルを操っていたのか。どこまでも不愉快な男だ」
 
俺は二人の話を聞いていて反論を口にした。この屋敷をねぐらに選んだのは確かに俺だが、それはあくまで俺の意思だ。

怪しげな術に操られていたことにされるのは気分がよくない。だがシュヴァルツは首を横に振り、無意識下で俺は操られていたのだと言った。

「君が信じられないのも無理ないが、あの男はそれが可能なんだ。魔術という怪しげな術によってね。それに口先だけで人を騙す詐欺師でもあるから、絶対に耳を貸してはいけないよ」
「そうやって人の印象を悪くするのはやめてもらえませんか。アーテル君、勘違いしちゃいけませんよ。僕はシュヴァルツ君が言うほど酷い人間ではありませんから」
 
ルーフスが浮かべる笑みは柔らかく人当たりがいいはずなのに、俺は気持ち悪くて仕方がない。シュヴァルツがこの男をこうも毛嫌いしている理由の一端が分かった気がした。

正直なところ早くルーフスの気配がしないところまで逃げていきたい。その欲求が俺を駆り立てる。シュヴァルツも俺の気持ちを察してくれたのか、俺の手を取り「逃げよう」と目で合図をした。

「おや、逃げるんですか。寂しいな、今夜は何があってもここに泊まってもらいますよ」
 
なんでこうも俺たちに執着してくるのかは不明だが、とにかくルーフスは俺たちを逃がす気はさらさらないらしい。

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あきゅろす。
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