シリーズ
3
所持金が無いに等しい古座は、絶望のままカジノに併設されているバーのカウンターに座った。高鍋が酒をおごっても、震える手でそれを握り、口をつけることすらままならない。
「しっかり持たないと落とすよ」
高鍋はふらつく古座の手を支えてやりながら、優しく諭すようにその頭を撫でてやった。
それでようやく酒を飲めるようになった古座は、タガが外れた大量の酒をあおり、ベロベロになってしまうまで飲み続けた。
「ちくしょー、どうせ賭けで負けたのも俺が馬鹿なせいなんだよ。どいつもこいつも俺のことを馬鹿って呼ぶんだ。どうせ高鍋さんもそう思ってんだろぉ?」
「思ってないさ。それよりカジノの紹介料のことなんだが……」
「もー、やってらんねぇ! ウィスキーのロックおかわり!」
カウンターに立つバーテンはあきれたように古座を見ながら、氷の入ったグラスにウィスキーを注いで渡した。琥珀色の液体の中で揺らめく氷を見つめつつ、古座は一気にそれを飲み干す。
それが古座の限界だったのか、かろうじて保っていた意識を手放すと、テーブルに突っ伏し派手に寝息を立て始めた。
「紹介料……はあ、まったくしょうがないな」
高鍋はいびきをかき始めた古座の背中をさすってやると、何やら意味深に笑い、自分もウィスキーのロックを頼んだ。
古座が最後に見たのは綺麗に磨かれたバーのテーブルの木目で、次に目を開けた時には見知らぬ部屋のベッドの上にいた。
アルコールの抜けきらない頭はなかなか回転がかからず、古座はしばらくの間ベッドの上に座って焦点の定まらない目を虚空に向けていた。
しかし徐々に今までのことを思い出してくると、ハッと目を見開きあたりをせわしなく見回した。
部屋は一見するとビジネスホテルのような内装だったが、ピンクの照明や大きすぎる鏡など、どことなくいかがわしさを漂わせている。
「高鍋さん! おい、ここどこだよ。なあ、どこにいるんだよ!」
不安に駆られた古座は、必死になってこの場にいない高鍋を探した。
するとシャワールームとおぼしき部屋の扉が開いて、中から風呂上がりの高鍋が首元にタオルを下げ出てきた。
「ああ、起きてたのか。いや、ずいぶんグッスリだったからどうしようか困ってね。それで悪いが、近くのホテルに連れてこさせてもらったよ」
「そうなのか。それはいいけど、ここなんのホテル?」
「何って、どう見たってラブホテルじゃないか」
こともなさげに言ってみせる高鍋だったが、古座は動揺を隠すことができなかった。
「はあ!? ラブホ? 男二人で?」
「近いし、何よりビジネスホテルより安かったからね」
高鍋の言うことは理にかなっており、古座はひとまず妙なことをするために連れてきたのではないのだと安心した。
そして高鍋にここまで世話を見てくれた礼を言うと、不快な汗を流すためシャワールームへ行こうとベッドを降りた。
ところがベッドから腰を上げた瞬間、体が傾いたかと思うとそのまま床へ倒れ込んでしまった。
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