シリーズ
5
このまま人気のない場所にでも連れていかれるのかと思ったが、意外にも子供が向かったのは奴の泊まっているホテルだった。
やや古ぼけたそのホテルに入ると、受付の若い女が愛想よく俺たちを出迎える。
「ねえ坊や、その人はどうしたの?」
「別に……僕の友達」
ぶっきらぼうにそう返すと、子供は俺を引っ張り足早に部屋へ向かった。
子供の泊まっている部屋は、大量の武器の類がそこら中に置いてあることを除けば普通の部屋だった。まあ、武器が置いてある時点で普通の部屋とは呼べないか。
「そこで上着を脱げ、部屋がビショビショになる」
「分かってるよ、全部脱げばいいんだろ」
「ぬ、脱がなくていい! 上着だけでいいって言ってるだろ!」
顔を赤らめながら怒る姿は相変わらずだ。別にいかがわしいことをしているわけじゃないんだから、俺の裸ぐらいでガタガタ言うのはどうなんだ。
第一男の裸体ぐらい自分のを毎日見てるんだから、どうってことないだろうに。
俺は不満を顔に出しながら、ぐっしょり濡れたレインコートと帽子を脱いでいく。
こんな状況でも俺がそれほど焦りを感じていないのは逃げ切る自信があるからだ。いつも通り色仕掛けでも仕掛けて怯んだ隙に逃げ出せば、後はどうにかなるだろう。
上着の下は細めの鎖で緊縛されていた。そして鎖の先は子供の手へと伸びており、俺はまるで手綱を引かれる馬のようだ。
「まったく将来有望だな、こりゃ」
俺の皮肉を聞き逃さず、子供は怒ったようにこちらをにらみつけると鎖を握る手に力を入れた。
その瞬間体に衝撃が走り、ビクビクと痙攣し始めた。
ただでさえ疲労がたまっているのに、そのうえそんな衝撃を与えられたのでは俺は耐えられず、近くにあったベッドに倒れ込んでしまう。
「あっ、うっ……! て、てめ、なんてことしやがる!」
「うるさい、今僕のことをどこぞの変態と一緒にしただろ!」
まさにその通り、俺を縛った上に責め苦を与えるなんて、シュヴァルツを超える捻じ曲がった性癖の持ち主だ。
さすがにそのことは言わなかった、というかとても言える状況ではなかった。
なんせ子供は仰向けに倒れた俺の上にまたがり、騎乗位のような体勢で大きなナイフを振りかざしているのだ。
「まず喉を潰し汚い声を出せなくして、心臓も潰す。お前らはそれでもまだ生きてるだろうから、じっくり解体した後日光浴をさせてやる!」
「待て、馬鹿! ホテルの部屋どんだけ血まみれにする気だよ!」
しかし子供は俺のことはもちろんホテルの被る迷惑なども考えていないようで、ナイフを俺の喉めがけて突き立てようとした。
最悪なことにそれを受け止めようにもさっきの衝撃で体に力が入らず、とてもナイフは受け止められそうにない。
それでも無我夢中でもがきながら、俺はふと夢魔から買った香水のことを思い出した。
あれはガラクタと一緒に上着のポケットに入れていたはずだ。俺はポケットに手を突っ込むと、後先考えずとにかく香水をあたりに振り撒いた。
「お前何を! うわっ、なんだこれ!」
子供は面食らって俺から離れようとし、ナイフを取り落すと後ずさりをした。原液を直接食らったためか、催淫効果とやらがすでに表れているらしい。
以前と同じように体に巻きついていた鎖は力をなくしたように緩み、俺は自由を取り戻した。
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