シリーズ 4 その置物は四匹の蛇が複雑に絡み合ったようなもので、俺の目から見れば限りなくガラクタだった。 「これは四匹の絡み合った蛇を上手く取り外し、バラバラにするパズルでございます。しかしただのパズルではなく、見た限りはどんな者も解けるに違いないと思うのですが、実際は決して解けることがないのです」 俺の精気を吸い過ぎてしまった詫びだと言う夢魔だが、まさか本当にガラクタだとは思わなかった。 俺はパズルなんかに興味はないし、第一解けないパズルになんの意味があるって言うんだ。 俺の苛立ちを敏感に察したのか、夢魔は「お買い上げありがとうございます」と言うとさっさとその場から煙のように消えてしまった。 俺は詐欺にでもあったような腹立たしい気分でもらったパズルを弄繰り回していたが、どんなに力を加えてもまったく歪まず、確かに不思議といえば不思議な物だった。 しかしそんなものでは俺の怒りは収まらず、俺はようやく立てるようになると乱暴に香水とガラクタを懐に押し込み、シュヴァルツに愚痴でも聞かせてやろうとホテルへ戻ることにした。 雨はいまだ止む様子を見せず、騒々しい音を立てながら振り続けている。 重たい体を引きずってホテルへの長い道のりを歩んでいたが、どうにも精気を吸われ過ぎたせいか足元がおぼつかない。 きっとはたから見れば酔っ払いにでも見えていることだろう。 顔を上げる気力すらなくうつむきながら歩いていると、前からくる人間に気づかず思い切り肩をぶつけてしまった。 「あっ、悪い……」 今に限ってはトラブルを起こしたくなかったので素直に謝ったが、相手の顔を見てゴロツキよりもずっとたちの悪い奴だということに気がついた。 「お前!? なんで吸血鬼のくせに図々しく朝から出歩いてるんだ!」 頭にキンキン響く声で無礼にも俺を指さしてくるのは、忘れもしないあの子供だった。 心なしか背がちょっと伸びていて成長したような気もするが、人を舐めた態度はいつ会っても変わらない。 まさに災厄そのものに出会ってしまった気分、こんな状態で会うには最悪過ぎる奴だ。 「まさかこんな朝から人の生き血をすすろうとしてたのか? なんて下劣な奴だ、僕がここで消し去ってやる!」 「おい待てよ! 俺は今そんなことしてる状況じゃねえんだよ!」 俺が必死に弁明するのも聞かず、子供は大口径の銃を抜き俺の眉間に押し当てている。カチリと撃鉄を起こす嫌な音がして、俺は慌ててそれを止めようとした。 「ば、馬鹿、こんな雨じゃ火薬が湿気って撃てないぞ!」 「僕を馬鹿にしてるのか? そんなくだらない嘘を考えつく脳みそなんて、さっさと地面に撒き散らせてやる」 「……チッ、まあ待てよ。ほらそこら中の奴が俺たちを見てるぞ。こんな中で俺を殺せばそれこそ面倒なことになるからな」 俺の言葉で子供はあたりを見回し始める。実際周りには少ないながらも野次馬が集まり、これからどんな陰惨な事態が始まるのか、期待を込めた目で見つめてはヒソヒソ話をしていた。 状況を察した子供は大人しく銃をホルスターに収め、俺の服の裾をしっかりつかんで引っ張った。 「逃げようとしたらどうなるか分かっているな?」 耳打ちしながら子供はこっそり服の裾から細い鎖を俺の体に巻きつける。 俺はさっさと逃げなかったことを後悔し、憎々しく思いながら大人しく野次馬をかき分け子供の後についていった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |