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シリーズ
4
それから十年は特筆すべきこともない、生ぬるい関係が続くばかりさ。

今思えばなんともおかしな光景だ、父の仇と食卓を囲みベッタリとはいかないまでもそれなりの親交は持っていたのだから。
 
男はあまりおしゃべりな奴ではなくてね、いや、むしろ無口と行っても過言じゃなかったよ。奴は私にものを教える時以外は極力しゃべらなかった。
 
ところでアーテル、君は老いというものを感じたことがあるかい? 

ハハ、すまないあるわけがないね。君はまだ若かったし、あくまで普通の人生を歩んでいたんだからね。
 
しかし近くに人の理を大きく逸脱したものがいると、度々考えさせられることがあるんだよ。平たく言ってしまえば死について嫌でも考えさせられるんだ。

君も私も吸血鬼になってから一切年を取らなくなっただろう、それに怪我をしてもある程度は一瞬で治ってしまうし、滅多なことでは吸血鬼というのは死なないものなんだよ。
 
そこで考えてみてくれ、ぐんぐん成長していく多感な年頃の少年が、自分と同じ人間の見た目をしているのに死の影を見せない吸血鬼と一緒にいる。

自分は年を重ね死へと近づいているのに、その男は死とは縁遠い場所にいる。
 
君は首を傾げているが、実際のところ私はそうだったんだよ。

十八になる頃にはすっかり死恐怖症というやつさ。数年間ずっと病的なまでに死を恐れ、ついには男に自ら仲間にしてくれと懇願したんだ。
 
ずいぶん恥知らずな人間だったね、あの頃の私は。父を殺した仇に「吸血鬼にしてくれ」と泣いてすがりついたんだから。
 
するとどうだい、奴の鉄仮面みたいな顔が見る見るうちに歪んでいって、今まで見たことのない満面の笑みで声を上げて笑い始めたんだ。驚いて何も言えず立ち尽くす私に、男は笑いながらこう言った。

「この時を今か今かと待っていた。ようやく自分から懇願してきたな、十五年も待ってきた甲斐があったぞ」ってね。
 
一瞬何を言っているのか理解できなかったよ。しかし男の話を聞いていくうちに、ようやく理解することができた。
 
つまり男は私のことを気に入って、自ら吸血鬼になりたいと言わせるがために、父を殺しさらって育て上げてきたのだ。

理解できるかい? たかだか吸血鬼にさせたいのなら早いとこ首筋に噛みついてしまえば済むことなのに、奴は私の父をむごたらしい姿にし、憎しみに燃える私の牙を抜いて今までぬるい親交を持ってきたんだ。
 
茫然自失の私をよそに、男は高笑いをしながら首筋にかぶりついた。そしていつぞやの君と同じように、私は苦しみながら血を抜かれ意識を失っていった。
 
ここまでは奴の計画通りだっただろうね。しかしひとつ考えの甘い部分があった。それはこの私の憎悪を、再び蘇らせてしまったことだ。
 
目を覚ました私の目に一番に飛び込んできたのは、嬉しそうに笑う男の顔だった。

その瞬間、私の体は吸血鬼になったばかりでろくに動くはずがないのに、どういうわけだか勝手に腕が上がりものすごい速さの手刀で油断していた男の首を切り落としたんだ。

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あきゅろす。
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