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シリーズ
13
「お前、あの兄貴のこと苦手なのか?」

日が沈み、代わりにネオンや電飾が灯り始めた帰り道。雪間は隣を歩く古座へ何の気なしに尋ねた。

「な、なんだよ急に!」
「いや、お前が兄貴と話してる時、反抗期のガキみたいだったから気になってな」
「誰がガキだよ! そりゃ、二十二にもなってあの感じは恥ずかしいけど、兄貴のことは別に……」
 
言い淀む古座に雪間もそんなものかと納得した。確かに、兄弟との親密な会話を第三者が聞いていたら、ああいう態度になるのかもしれない。

「でも意外だったな。お前と初めて会った時、お前のこと家出中のガキだと思ってたから兄弟仲も悪いもんだと思ってたよ。」
「家出って……あの時だって俺二十は過ぎてたし。そんなにガキに見えたのかよ」
「今だって見えるぞ」
「見えない!」
 
ムキになって反論する様はまさに子供っぽさの塊で、雪間は思わずクスクスと笑ってしまった。案の定古座は不機嫌になり、ぷいとそっぽを向いてしまう。
 
いつも通りの反応が返ってくることに雪間は少なからずホッとしていた。古座が酷く不安げにしていた時、自分のことのように胸が痛くなったが、今はもう心配なさそうだ。
 
とはいえ根本から原因が解消されたわけではないだろう。もし同じような状況になったら自分がしっかり支えになってやらなければ。そんなことを考えているとつい平時では恥ずかしくて面と向かって言えないような言葉が雪間の口をついて出た。

「悪かった、機嫌直せよ。俺だってお前のことはちゃんと大人としてみてるから」
「そんなの当たり前だろ」
「だけどな、大人だからってなんでも一人でやっていけるわけじゃないだろ? 俺はお前が必要だし、お前は俺が必要だ。だから、心配しなくたって俺はお前とこれからも一緒にいてやるよ。恋人としても相棒としてもな」
 
唐突な言葉に古座はキョトンとしていたが、次の瞬間には顔を赤くし狼狽え始めた。

「何こんなとこでそんなこと言ってんだよ!」
「べ、別に変なことは言ってないだろ」
「変じゃないけど人がいるとこで言うことじゃないだろ! もう……こっち来いよ」
 
周囲の人混みはそれほどでもなく、さっきの会話も誰かの耳に届いてるようには思えなかったが、古座はあたりをキョロキョロと見回し、警戒心をむき出しにしながら雪間を路地の方へと引っ張っていった。
 
入り組んだ細い道の奥まで歩き、完全に人目がなくなると古座は再び雪間の方を振り返る。
 
赤らんだ顔は少しマシになったようだが、薄暗くて判然としない。

「こんなとこまで来る必要なかっただろ」
「ある! あんなとこで一緒にいてやるだとか恋人だとか、恥ずかしいこと堂々と言って、もし知り合いにでも聞かれたら一生ネタにされて笑われるだろ!」
「そんなことは……ないと思うけどな」
 
いざそんな状況を想像してみると、雪間も「ない」と断言できる自信はなかった。

「けど、言ってくれた内容自体は嬉しかったよ」
 
古座はフッと笑うと強ばらせていた表情を緩めた。

「まだ言いたいことあるんなら言ってくれよ。今度はちゃんと素直に受け取るから」
 
それまでと違い古座はしおらしくなると、何か期待した目で雪間を見つめた。もっと甘く優しい言葉を囁いて欲しいと言わんばかりだ。
 
雪間もそれを察してはいたが、思わず口ごもると申し訳なさそうに古座を見た。

「……話は、その……さっきので終わりのつもりだったんだが」
 
思わぬ返答に古座は黙り込み、雪間も気まずそうに口を閉ざす。しばし重たい沈黙が流れ、ややあって古座が口を開いた。

「雪間さんってそういうとこあるよな。だからまともな奴にはモテないんじゃないの?」
「わ、悪かったよ」
「何もなくてもテキトーにひねり出してくれないといまいち締まらねえじゃん」
「そんなこと言ったって仕方ないだろ。本当にすまないとは思ってる……後でちゃんと埋め合わせはするから」
 
変に負い目を感じてしまい、雪間は古座と目を合わせることができなかった。すると、クスクスと笑う古座の声がして、肩にドッと何かの重みが加わった。
 
右を見ると、すぐ近くにこっちをニヤニヤ見つめる古座の顔があり、肩に回された手がしっかりと雪間の体をつかんでいた。

「そんな本気で悩むことでもないだろ。俺優しいから、夕飯でナポリタン作ってくれたら今日は特別に許してやるよ」
「馬鹿、調子に乗るなよ」
 
ニヤつく古座を諌めながらも、雪間もつられて笑う。
 
それなら材料を買い足さないと、と言うや否や我先にと駆け出す古座の後を追い雪間も歩き出した。

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