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シリーズ
9
白濁にまみれ、使い古された道具のように打ち捨てられた古座は、布団の上でぐったりと身を横たえながら小さく肩で息をしていた。もはや指一本動かすのもつらいのか、意識を朦朧とさせている。

「男のケツでも気持ち良くなれるもんだな」
「ああ、出せるだけ出したわ。女と違って中出ししてもガキ孕まねえし、結構使えるかもなこいつ」
「うわ、お前中々酷いこと言うなー。でも気持ちわかるわ。この前さあ、俺のせいで妊娠したっていう女がすげえ文句言ってきて大変だったんだよ」
 
男たちは聞くに堪えない会話をしながら、古座から少し離れたところに座って駄弁っていた。

「どうせだし他の奴らも呼ぶ? たぶん男でもヤるだろ、たぶん」
「おっそうだな……あっ駄目だ! 木野井の襲撃成功したから田村さんが飯奢ってくれるって言ってたんだ!」
「やべっ、そうだった! 約束すっぽかしたらあの人マジで俺らのこと殺しかねないからな……」
「じゃあこいつはここに監禁して、暇な時にマワしに来る?」
「ここ風呂ねえし、このままじゃ臭くなるんじゃね?」
「いっそ風俗に堕としてヤりたい時にヤれるようにすんのはどうだ? 前にヤク漬けにした奴ソープ送りにしたじゃん。そん時みたいな感じでさ」
「男買うようなとこ知り合いにいねえけどなあ」
 
答えの出ない議論に、男たちは次第に熱中していく。
 
そんな中、倒れていた古座の手足に力が入った。緩慢な動きで音もなく起き上がり、男たちの背後に近づいていく。
 
話に夢中の男たちは誰もそれに気づく素振りはなく、古座は手を伸ばし、壁際に座っている男の右側頭部を鷲づかみにすると、そのまま力の限り壁に叩きつけた。
 
ドゴっと鈍い音がして、叩きつけられた男は声も上げずその場に崩れ落ちる。
 
あまりに急なことだったので誰もが状況を飲み込めず固まっていると、古座はさらに手近にいた男のこめかみへ回し蹴りを入れた。綺麗に入った蹴りは男の脳を揺さぶり、一瞬にして意識を失わせる。
 
人数の半分がやられたところで残りの二人はようやく立ち上がり、動揺を隠せぬまま怒鳴った。

「て、てめ……っ! いつの間に起きてやがった!」
「お前らがくだらねーことごちゃごちゃ話してた時からずっとだよ」
 
さっきまでとは打って変わってけろっとしている古座に、男たちは信じられないような目を向けていた。

あれだけ手酷く犯したというのに、何故立っていられるのか。不思議に思うと同時に恐怖に近い感情が芽生えつつあった。

「お、大人しくしといた方が身のためだぜ。今ならその二人やったのも見逃してやるからよ」
「お前、俺たちのバックに誰がついてるのか知らねえのか!? 前崎組だぞ! 俺らに手ぇ出したら、木野井だってビビるようなとこ敵に回すことになんだからな!」
 
男たちは口々にわめき立てるが、古座は拳を握りしめ構えを解くことはない。これまで散々な目に遭わされた借りを返すように、古座は激情の赴くまま猛威を奮った。
 



「ハァ……こんな奴らに好き勝手されてたとかマジ最悪! さっさとボコッとけばよかったな」

古座は大きく背伸びをしながら、首や肩の関節を鳴らす。
 
足元にはついさっきまで立っていたはずの男が二人、うなされたような顔をしながら気絶している。古座の猛攻に一分と保たず、あっという間にのされてしまったのだった。
 
思った以上のあっけなさに釈然としない気持ちを抱きつつ、古座は汚れた体を誰かが脱ぎ捨てたジャージで拭い、そっと股の間に手を伸ばした。四人分の精液がドロリとあふれ、肌を汚す。
 
酷く不快な気分になって、すぐさま布団のそばにあったティッシュで拭いたが、奥の方に注がれた精液は残ったままだ。
 
こんなところで悠長に体を綺麗にしているわけにもいかず、渋々諦めるとその辺に捨ててあった下着やズボンを穿き、奪われていた携帯や財布も取り返して部屋を出た。
 
薄暗い廊下を抜け、すぐに外へ通じる出口が見つかった。出入り口を封鎖するように巻いてある黄色と黒のロープをくぐり抜け、改めて振り返ってみると廃墟のような小さなビルがそこにはあった。
 
不法に占拠しているのか、それとも誰かの持ちビルなのかは分からないが、周囲は人気も少なく同じような廃ビルが散見され、ああいう不良集団がたむろするにはピッタリの場所だなと古座は妙に納得した。
 
他に仲間がいないか警戒しながら、古座はその場を離れていった。幸い少し歩けば大きな道路に出るので、そこからバスに乗れそうだ。
 
そうだ、と思い出し古座は携帯を取り出した。やはり、雪間からいくつもメッセージが送られてきている。
 
「大丈夫か? 今どこにいる?」と短い文章がここ数時間で何件も送られていて、心配する様子がありありと浮かんできた。
 
反射的に返事をしなければと思った古座だが、寸でのところで思いとどまり、返信しようとしていた手を止めた。
 
もしのこのこと雪間の元へ帰ってしまえば、自分のことを恨むであろうあの不良たちが、雪間にまで矛先を向けてしまうかもしれない。ああいう手合はメンツを潰した相手に酷く執着するものだ。
 
更に質の悪いことに、不良集団の背後にはヤクザまでいる。そんな連中と雪間を関わらせたくないものの、ほとぼりが冷めるまで身を隠せるようなあてもなく、古座は途方に暮れた。
 
つい無意識にパーカーのポケットに手を入れると、指先に何かが触れた。入っていたのは木野井に渡されたホストクラブの名刺だった。
 
古座はしばしそれを見つめ、右手に持っていた携帯を握り締めた。

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