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シリーズ
5
「津島さんっ、今すぐやめ……がっ、ガフッ、あ゛ぁ゛っ! ゴフッ!」
 
渾身の力で頭を押えつけられ、雪間は水の中でもがいた。暴れれば暴れるほど酸素は消費され、さらに水が鼻や口の中へと入ってきて苦しみが増していく。

だがこのまま溺死させられるかもしれないという恐怖のせいで、嫌でも体が動いてしまう。
 
そうしていると段々意識が薄れてきて、抵抗も弱々しくなってきた。このまま殺されるのだろうか、とどこか他人事のように思っていると雪間は不意に水の中から引き揚げられた。
 
反射的に酸素を取り込もうと、口が大きく開く。同時に飲み込みかけていた水が口の中を逆流し、ゴプっとあふれてきた。もっと息をしなければと焦る気持ちもよそに体は勝手に咳き込んでヒューヒューと異常な呼吸音をさせている。

「……ゲホッ、ハァ、や、やめ……ガボッ!」
 
背後の津島へ助けを求めようとしたその瞬間、視界は再び歪んだ光景を映していた。水が口や鼻から入ってきて、あの苦しみにまた身悶える羽目になる。
 
二回目はあまり息を吸えなかったせいですぐに抵抗する気力は消え失せた。這い上がろうとするのも早々にあきらめ、されるがまま酸欠気味の頭を沈められ続ける。
 
意識を手放しかけると今度は水から引き上げられ、そしてまたすぐに沈められた。それを何度も繰り返すうち、雪間はほとんど無抵抗になり荒い息継ぎの合間に「やめてくれ」と繰り返すばかりになった。
 
だが、なおも水責めは繰り返される。雪間の心が完全に折れるまでそれは続きそうだった。




「おやおや、ずいぶん静かになったと思ったらもう降参かな。頑なそうに見えたが案外折れるのが早かったな」
 
先生の見下ろす先には、ずぶ濡れになってバスタブにもたれ掛かる雪間の姿があった。シャツまでぐっしょり濡れて、目は死んだように濁り、怯えているのか身をすくませている。
 
その隣では津島が申し訳なさそうな顔をしながら、雪間のことを気遣う様子を見せていた。

「あの、先生。雪間さんも分かってくれたと思いますから、このあたりで十分ではないでしょうか?」
「それは彼の返答次第だね」
 
先生は雪間に近づくとその顔をジッと覗き込んでくる。

「君の答えを聞かせてもらおうか。ここへ、悠木君と君のパートナーを呼び出してくれるかな?」
「……呼び出したとして、一体二人をどうするつもりだ?」
「悠木君は兄である津島君と幸せに暮らせるようにしてあげるつもりだよ。君のパートナー、ええと、古座君といったかな? 彼に関しては、私や団体が異常だという誤解を解いてもらえるよう少しばかり話し合いをするつもりだ」
 
柔らかく微笑むその顔に、雪間は底知れぬ悪意を感じ取ってしまった。もし従えば悠木どころか古座までもこの男に滅茶苦茶にされてしまう。その直感が雪間を突き動かし、怯えすらも取り去って、先生への反抗心を再び燃え上がらせた。

「そんな見え透いた嘘を……珠樹も悠木もこんなところへは来させない。何でも自分の思い通りに動くと思ったら大間違いだ!」
「ゆ、雪間さん! お願いします、先生の言うことを信じてください。確かに酷いことはしましたけど、あれは仕方のないことだったんです。先生の言う通りにすればきっと何もかも上手くいきますから、だから――」
「あんたもいつまでそんなこと言ってる気だ! 悠木があんたから逃げたのはそうやって人の話も聞かないで、こんな怪しい奴の言いなりになっていたせいだろうが!」
 
余裕もないせいか雪間は感情のままに悠木や先生のことを罵った。手足の拘束さえなければ殴りかかっていたかもしれない。
 
事実を突きつけられた津島はオロオロとするばかりだったが、目を覚ますには雪間の言葉だけでは不十分だった。自分の行いにほんの少し疑問を持ちかけてはいたが、すぐに先生が舌先三寸で丸め込んでしまう。
 
そして、津島はあの心酔しきったような眼差しを再び先生に向けていた。

「津島君、よくやってくれたね。ここから先は私に任せて、君は先に家へ戻りなさい」
「はい、先生……その、雪間さんも先生のこと誤解してるだけですから、きっと分かりあえるはずですよ」
「何寝ぼけたことを……!」
 
ありえない理想論を残し、津島はバスルームを出て行ってしまった。代わりに入ってきたのは屈強な体格の男だった。
 
津島は「分かりあえるはず」などと言っていたが、わざわざこんながたいのいい男を呼び寄せた先生が、対話をもって和解しようとしているとは考え難い。
 
その予想を裏付けるかのように、男は雪間の体を乱暴につかみ上げ、どこかへ運んでいった。




先生の家はかなり広いようで、豪邸とまではいかないがそれなりのところに住んでいるようだった。そんな家の中を引きずるように歩かされ、雪間は地下室へと連れ込まれた。
 
コンクリートが剥き出しの部屋はひんやりした空気が流れ、濡れたままの雪間は寒さに体を震わせる。だが体に感じる寒さ以上に、これからされることを考えると肌が粟立ち悪寒が背筋を走っていった。
 
部屋の奥には大掛かりな器具が置かれていた。まるでSMプレイで使うような拘束具つきの椅子に、口枷や手枷、見るからに卑猥な目的で使用する器具など。これから何をされるのか嫌でも想像がついてしまう。

「心配しなくても拷問なんて酷いことはしないよ、私は暴力は嫌いなんだ」
「人のこと溺れさせといてどの口が言ってんだ」
 
雪間の悪態も軽く聞き流し、先生は部下の男に命令して雪間の服を脱がせてしまった。男は雪間を拘束具つきの椅子に座らせると、手足を革製の拘束具でとめていく。
 
足は開いた状態で固定されるため、股間や尻の穴を隠すこともできずさらけ出される。
 
屈辱的な仕打ちに雪間は唇を噛み締め、キッと目の前の男たちをにらみつけていた。

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