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シリーズ
12
子供のようにふてくされてしまった古座は一旦放置して、雪間は悠木に話をの続きをするよう促した。悠木は周囲をうかがうと、先ほどよりも声を潜めて話を再開した。

「えっと、まあそんなことがあっても俺が頼れるのは兄さんだけだったし、その頃はまだかろうじて兄さんへの情もあったから家には残り続けたんだけど、それからしばらくして先生に一緒に暮らそうって誘われたんだよね。あっ、先生って兄さんたちとは別の家に住んでたんだよ。だから俺も相手するのはたまに先生から呼び出された時だけで済んでたんだけど」
「一緒に住んでたらたまにじゃ済まないってわけか。それが嫌で家出したのか?」
「それもあるけど、ちょっと違うかな。俺が一番嫌だったのは兄さんなんだよ。先生に誘われた時、さすがに止めてくれると思ったのに、『行ってきなさい』って笑顔で言われちゃって。その瞬間兄さんへの信頼とか情とか全部プツンと切れちゃった。それであの家から逃げ出したんだ」
「……そうか。こんな話させて悪かったな」
「いいんだよ。信用してもらうにはこっちも隠し事するわけにはいかないしね。雪間さんは珠樹と違って慎重そうだし」
「しかし、今の話を聞くとなおさらあんたの兄貴の執念深さを感じるな。話し合いでどうこうできる相手だとは思えないが、本気で会う気か?」
「もちろん。珠樹にも言われたけど、いつまでも逃げ続けられるわけないしね。それに二人に立ち会ってもらえるんなら安心だよ」
「もしトラブルになった時は俺たちに片づけさせるつもりか?」
「アハハ、分かっちゃった? 下心丸出しで悪いけど、俺も手段選んでられるほど余裕ないしね。それに雪間さんの方だって、仕事達成して兄さんから報酬もらえるんだし悪い話じゃないでしょ?」
「あんたに肩入れしてるのがバレた時点で報酬の話も消えそうだけどな」
 
困ったように腕を組み、雪間は悠木をどうしようかと頭を悩ませた。下手に手を出せば今回の仕事はすべて吹き飛びかねない事態だ。

心情的には味方をしてやりたいが、そもそもさっきの話も悠木の一方的な視点から見た話しに過ぎないわけで、今の時点で判断を下すのは早計に思えた。

「俺は仕事とかどうでもいいから、悠木の力になりたい」
 
それまで黙り込んでいた古座が不意に口を開いた。かと思えば、ずっと考え事をしている雪間に批判がましい目を向けてくる。

「先に言っとくけど雪間さんが反対しても俺の気持ちは変わらないからな」
「お前なあ。何も考えずに安請け合いしてるとそのうち後悔するぞ」
「い、いいもん! その時はその時だし」
 
子供のような言いぐさに雪間は怒る気にもなれずため息をついた。

「珠樹の気持ちは嬉しいけど、雪間さんの言う通りだよ。会ったばかりなのに何でも信じてたら、いつか悪い人に騙されちゃうよ」
「ゆ、悠木までそんなこと言うのかよ」
「本人がそう言ってるんだからいいだろ。大体、信用するなとは言ってない。もう少し考えろって言ってるんだ」
「俺だってちゃんと考えてるし……」
 
拗ねてしまったのか古座は一言だけ反論すると口を堅く閉ざした。
 
しかし雪間はそれに気を取られることもなく、今後どう動くかを悠木へ提案した。まず、兄である津島との顔合わせだが、そう急ぐことでもないので何もない限りは一週間後に会うことにしよう、と言うと悠木は素直にうなずいた。
 
その間、雪間は先ほどの悠木の話の裏を取るつもりだった。疑っているわけではないが、何の確証もなく協力するのは不用心だからだ。悠木もその話を聞くと嫌な顔一つせず、むしろ笑っていた。

「でも俺の話の裏を取るってことは、俺の地元まで行くってことでしょ? かなり遠いけど大丈夫?」
「ああ、まあ……バスで行くかな。ハァ、ちゃんとした報酬もらえなきゃ赤字だな」
「ごめんね、変なことに巻き込んじゃって。それと気をつけて。先生って結構危ない人かもしれないから」
「心配ない、危ないことなら今まで散々巻き込まれてきた」
「フフ、かっこいいね。珠樹が雪間さんのこと好きな気持ちちょっと分かったかも」
 
面と向かってそんなことを言われると、嫌な気持ちはしないがむずかゆくて仕方ない。
 
雪間は誤魔化すように咳ばらいをすると、悠木と連絡先を交換してその日は解散することにした。

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