[携帯モード] [URL送信]

シリーズ
11
深夜のファミレスは歓楽街の近くという立地のせいかそれなりに人も入っていた。そんな店内の奥の方のテーブルで、古座と雪間は悠木の仕事が終わるのを待っていた。
 
古座は疲労がたまっているせいか眠いようで、半分ほどに減ったパンケーキをつつきながらうとうとしている。見ていられない、と向かいに座る雪間は古座の眠気を覚ましてやろうとドリンクバーからコーヒーを持って来た。

「それ飲め。少しは目が覚めるだろ」
「ありがと……苦っ! 砂糖くらい入れろよ」
「ブラックの方が目が覚めるだろ」
「もー、優しくないな。こっちは体張ったせいですっげえ疲れてるんだぜ」
 
古座はちびちびとブラックコーヒーを飲みながら、疲弊しきった顔を隠そうともしない。

「一週間分は出したかもな。亀頭をこうずっと弄られてさ、何度も潮吹きさせられて。雪間さんにも今度やってやりたいな」
「するな」
 
左手で何かをつかみ、右の手のひらで何かをさするような動きをしている古座をたしなめ、雪間は頭を抱えた。
 
目まぐるしく状況が変わるせいでついて行けない部分が多く、悠木がどういうつもりで古座との話に応じる気になったのかもよく分からない。正直ファミレスで待っている今この時も、悠木に他意があるのではないかと怪しみ、疑念を晴らせないでいた。
 
そもそもここに来るのかとすら怪しんでいると、こちらに歩いて来る若い男の姿が見えた。
 
仕事終わりの悠木はゆるめのニットとスキニージーンズに着替え、古座を見つけるなり笑顔で手を振って近づいてきた。

「ごめん待たせちゃったね!」
 
悠木が来たので古座は席を移動して雪間の隣に座った。向かいに腰かけた悠木はニヤニヤしながら目の前の二人を見つめ、コーヒーを注文する。

気恥ずかしさに耐えながら、古座は悠木へ雪間のことを簡単に紹介すると、さっそく本題へ入ることにした。

「んで、今後のことだけど具体的に悠木はどうしたい?」
「そうだな、ホントは兄さんには会わずに逃げたいところだけど、そうしたらまた同じことの繰り返しだろうからね。ちゃんと会って俺のことをあきらめさせたいかな」
「……いいのかよ? 会いたくないんだったら、その、俺たちだけで話つけてもいいけど」
「俺の問題だし珠樹たちには迷惑かけられないよ。まあいざって時のためにその場には同席してもらいたいけどね」
 
古座はなおもすぐれない表情で悠木を思いとどまらせようと、遠回しに説得を試みているが、不意に「ひゃんっ」と情けない声を上げた。脇腹に違和感を覚えたと思ったら、不機嫌な顔で雪間が脇腹をつついてくる。

「いきなり何すんだよ!」
「本人がああ言ってるんだから会わせりゃいいだろ。こっちだって一応仕事は果たしたことになるんだから都合もいいしな」
「でもっ……家出してまで会いたくない奴なんだよ。嫌な思いしたり危ない目にあったりしたらどうすんだよ」
「お前は津島悠木に入れ込み過ぎだ。家出した事情だってよく知らないくせになんでそんなに必死になるんだ?」 
「そ、それは、別にいいだろ! ほっとけないんだよ!」
「まあまあ二人とも俺のことで喧嘩はしないで」
 
悠木は苦笑いしながら、険悪な雰囲気になりつつある古座と雪間をなだめる。

「でも、兄さんと会うのに同席してもらう以上、俺が何も話さないっていうのは駄目だよね。その様子だと二人とも兄さんから俺が家出した原因とか何も聞かされてないんでしょ?」
「ああ、いちいち詮索する理由もないからな」
 
雪間の返事に古座もうなずく。悠木はそれまで緩めていた口元をほんの少し硬くして、自身の過去をポツリと語り始めた。

「うちね、早くに両親死んじゃって家族は兄さんだけなんだよね。今でこそあれだけど昔は仲もよくて、俺のこと専門学校まで行かせてくれてホントいい兄さんだったんだよ。でも変な宗教にハマってから変わったんだ」
 
二人の脳裏に兄である津島の姿が浮かぶ。会った時は微塵もそういった雰囲気は出しておらず、雪間に至っては半信半疑で話を聞いているようだ。
 
悠木もそれを感じているのか、硬い表情で苦笑いしながら話を続けた。

「よくある宗教って感じじゃないんだよね。神様とかを崇めてるわけじゃなくて、先生って呼ばれてる教祖みたいな人にみんながすがってる感じ。悩みとか困ったことがあれば先生に相談して、普段は信者同士一緒の家で暮らしながら傷を舐めあってるんだよ」
「悠木もそこで暮らしてたの?」
「うん、一軒家に他人が集まって暮らすなんて正直嫌だったけど、兄さんが行くからついてくしかなかったんだ。何か強要されるってことは一部を除いてなかったけど、居心地はよくなかったな。みんな意思のないロボットみたいで、先生の言うことハイハイ聞いてて……」
 
悠木の表情は次第に暗くなり、淀みのなかった口調は重々しさを増していく。

「俺は先生とあそこに住んでる人間全員大嫌いだったけど、先生は俺のこと気に入ってたみたい。だから、俺はあの家にいる間何回も先生に抱かれたんだ」
 
空気が凍りつく。古座はもちろんのこと雪間もかける言葉を失い、沈黙していた。だが意外にもその中で真っ先に口を開いたのは、一番ショックを受けている様子の古座だった。

「な、なんだよそれ! 兄貴も誰も何か言ったりしなかったのかよ」
「するわけないよ。あそこにいた全員先生のすることは全部正しいと思ってるんだもん」
「……っ、そいつら全員おかしいだろ。兄貴だって、悠木のこと大事じゃないのかよ!」
 
古座は感情的になり周囲に人がいるのも忘れて声を荒げる。周りにいた何人かが振り返り、怪訝な顔でこちらを見ているので、雪間は見かねて古座を諫めた。

「落ち着け。今さら怒ったところでどうにもならないだろ」
「でもいくら何でもこんなのあんまりだろ! 意味分かんねえ……」
 
ひとしきり感情を吐き出して落ち着いたのか、古座は不機嫌そうに頭をかきむしって、すっかり静かになってしまった。いつも感情的だが今日はひと際激情に駆られている。その姿が雪間の目にはどこか危うく映った。

[*前へ][次へ#]

12/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!