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シリーズ
4
「ブツは回収できた。お前らが本当に何も知らされず囮にさせられたっていうウラもとれた。だがこのまま返すわけにはいかねえな」
 
男は古座のことを見下ろしながら目つきを鋭くする。

「ガキ、お前何人俺の部下を殴り倒した?」
「えー、うーんと、その……三人くらい、かな?」
「八人だ。サバ読んでんじゃねえよ」
 
男は平手で古座の頭をはたく。

「いくらお前らが部外者だとしても、八人も殴り倒したのは事実だ。だから償いをしてもらわねえとな」
「つ、償いって……金寄越せとかヤバイ仕事しろとか言うつもりかよ?」
「そんなんじゃねえよ。お前がぶっ倒した人数ぶんその体で相手してもらおうか」
 
思わぬ男の要求に古座は狼狽した。冗談めかしてそんな馬鹿なと言ってみるが、こちらを見下ろす男の目は少しも笑っていない。
 
古座は切迫した顔でぶんぶんと頭を横に振り、慌てふためきながら男へ食って掛かった。

「か、体って、俺に変なことさせる気かよ! それも八人も!? つうか俺は男だぞ!」
「お前何妙な想像してんだ? 俺が言ってんのはヤらせろってことじゃねえよ、お前にボコられた奴らの気が済むまでリンチさせろってことだ」
「待ってくれ! 前にも話した通りこの件の責任は俺にある。埋め合わせなら俺にさせてくれ」
 
古座と男の話に割り込み、雪間は古座のことをかばうように前へと身を乗り出した。だが勇敢な物言いとは裏腹に極限まで緊張の張り詰めた体には嫌な汗がにじみ、気を抜けば手の震えが出てしまいそうになる。
 
こちらを見つめる男の真意は、無表情な顔からはうかがい知ることはできない。何か感心したように小さく鼻を鳴らしていたが、いつ機嫌を損ねて暴力を振るうか分かったものではなかった。

「本当に、面白いことを言い出す奴だな」
 
男はそうつぶやくと口元をニヤリと歪めた。ここへ連れて来られる前に見せた嗜虐的な微笑みだ。

「そこまで言うんだったら仕方ねえ。もしお前がそのガキに代わって償うってんなら、部下の代わりに俺の相手をしてもらおうか」
「相手……あんたひとりでいいのか?」
「ああ、いい条件だろ? ガキがリンチされるか、お前が俺を満足させるか好きな方を選べばいい」
 
雪間はややあって男の要求を飲むことにした。古座は必死に止めようとしていたが、それが聞き入れられることもなく徒労に終わると、怒りや不安をないまぜにして雪間をにらんだ。

「こんなの絶対何かの罠じゃん。雪間さんも馬鹿じゃないんだからおかしいって分かってるだろ?」
 
返事こそなかったが雪間の複雑そうな表情を見れば、古座と同じ気持ちであるのは間違いない。けれども古座が八人もの男に暴行されるのと、何をされるのかは不明だがたった一人の男を自分が相手するのを天秤にかければ、雪間が後者を選ぶのは当然だった。
 
男の合図で部下数人が部屋の中へ入ってくると、二人の手足にかけられた手錠が解かれた。雪間は男に乱暴に手を引かれるとこの部屋から出て行こうとする。

「待って」と古座が小さな声でつぶやくが、雪間は振り向いて「心配するな」と言うばかりで、とうとう連れていかれてしまった。
 
取り残された古座はわめく気力もなくその場にへたり込み、何かこの状況を打破する手立てはないかとそれとなく周囲を見回した。見張りとして残された男はこの部屋だけで五人。
 
拘束もなく、体力もある程度回復してきたおかげで、この場の五人程度なら騒ぎになる前に倒せるかもしれない。

雪間を助けるためにはやるしかない、と古座が思っていると、おもむろに見張りの一人が近づいてきた。

「お前、妙なことはしない方がいいぞ。せっかく穏便に済ませようとしてんだから、そこで大人しくしてろ」
「べ、別に何もしてない! つーかこれのどこが穏便なんだよ。雪間さん連れてかれてんじゃん!」
「あの人の悪い癖が出ちまったからなあ。まあ、悪いようにはされないはずだから大人しく待っとけ」
「悪い癖?」
「まあ、そりゃあれだよ、あれ、男好きってやつ。雪間だっけ? あいつ木野井(このい)さんの趣味にぴったりハマってたからな。たぶんしばらくは戻ってこないぜ」
 
聞かされた話に理解が追いつかず古座はしばし思考停止するものの、木野井と呼ばれた男が雪間に対してやけに甘い条件を出していたことを思い出すと納得がいった。

「じゃあ雪間さん今からあいつとヤるってこと!? と、止めなきゃ!」
「だから大人しくしてろって。そういやあいつお前の彼氏だったか? 寝取られないといいな」
「ふざけんな!」
 
食って掛かろうとする古座に銃口が突きつけられる。周囲を見回せば目の前の男以外も殺気立って今にも古座へ襲い掛からんとしていた。
 
銃を持った相手がいるのでは下手なこともできない。古座は心底悔しそうな顔をしながら、言われるままその場に座った。




木野井とともに別室へやって来た雪間は殺風景な部屋の中にポツンと置かれたパイプベッドを見るなり、自分がこれから何をされるのか大体の察しがついた。
 
何をされてもいいと覚悟はしていたが、いざそれが目前になるとどうしても怖気づき、前へ進もうとする足は鉛のように重くなった。もたもたしていると木野井が乱暴に背中を押し、ベッドへ雪間を押し倒す。

「心配するな、痛くないよう優しく抱いてやる」
 
そんな言動とは裏腹に木野井は雪間の着ているジャンパーを脱がせると、乱暴に投げ捨てた。Tシャツは胸元までめくり上げられ、ベルトを緩めるとジーンズのファスナーがこじ開けられる。

「あのガキとヤる時はどっちでやるんだ? ネコか、タチか?」
「べ、別にどっちでもいいだろう。そんなこと聞いてどうなる」
「もしケツ弄られんのが初めてならちゃんと慣らしてやらないとと思っただけだよ。その様子ならちょっとは経験あるみてえだな」
 
図星だった雪間は何も言えず木野井から視線を外した。こうしている間にも木野井は雪間の体を撫で回し、強引に唇を奪う。
 
今までの粗暴な態度と違い、木野井の愛撫する手や口の動きは、自らの言葉を証明するように優しかった。まるで恋人にでもするかのようなそれに、雪間は戸惑いながらも息を荒くした。

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