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シリーズ
14
「人の事務所に忍び込むなんて、泥棒みたいな真似して恥ずかしくないんですか」
「お前に嫌ってほど調教されたからな。恥ずかしいなんて気持ちも忘れたよ。それより、これが外に漏れたらかなりヤバいんじゃないか? ヤクザ絡みの案件もあるようだしな」
 
赤尾は苦々しく顔を歪め、唇を強く噛み締めた。あれだけ見下し、奴隷のように扱ってきた雪間に優位に立たれるなど夢にも思っていなかったせいで、計り知れない屈辱がその身に降り積もっていた。
 
対する雪間は高笑いこそしなかったが、口角を上げて嫌味な笑みを浮かべていた。

「何でも言うことを聞く玩具がこんなことするとは思わなかったか?」
「……金が欲しいんですか? それとも俺に土下座でもさせますか?」
「金なんて必要ないし、お前の土下座なんか価値もない。だから二度と俺の前に現れないことだけ約束しろ。ハメ撮りは別に消さなくてもいいぞ。流出させたらお前の隠し事が周りにバレるだけだからな」
 
今にも殴り掛かりそうなほど血走った目でにらむ赤尾は、返事もせず無言を貫いていた。どちらにしろ拒否できるような内容でもないため、その沈黙は肯定とほぼ同じだった。

「お前は腐っても元後輩だからな、これをネタにゆすりはしないから安心しろよ」
 
見下していた人間から情けをかけられる屈辱は、赤尾からかろうじて残っていた冷静さをも奪い去った。

「クソッ、ふざけんじゃないっすよ! それで俺に勝ったつもりっすか!」
「別に勝ち負けなんて関係ないだろ。お前も長生きしたかったらこういうことはやめた方がいいぞ」
「知ったような口を叩かないでください!」
「そうだな。じゃあこの辺でおいとまさせてもらうか。珠樹、行くぞ」
「えっ、ま、待ってよ!」
 
憎悪を向ける赤尾に見切りをつけ、雪間は古座を連れ立って部屋を出た。玄関の扉を閉めると、中から何かの割れる音や物のぶつかる鈍い音など、すさまじい物音が扉越しに聞こえてくる。古座は気になっているようで、しきりに後ろを振り返るが、雪間は気にするなとそれを止めていた。




「なあ、ホントにあれで終わりでよかったのかよ。酷い目に遭わされたんなら、もっと色々やっても罰は当たんないんじゃないの?」
 
赤尾の家から帰る道すがら、古座は納得いかないようにしかめっ面をして雪間に詰め寄っていた。
 
どうせこちらが圧倒的に優位な立場なら、もっと色々な要求をした方がよかったという思いもあったが、何よりあれだけ苦しめられてきた赤尾を、簡単に許してしまったことが古座にとっては腑に落ちなかった。

「なー、あいつから物もらうのが嫌なら、俺が今からシメてこようか?」
「余計な事はしなくていい。俺はさっきので十分なんだよ。たっぷり屈辱は与えたし、あれならこの先ずっと寝る前に今日のこと思い出して悔しい思いするだろうな」
「雪間さん笑顔が悪人みたい。そんなに言うんだったら別にいいけど……」
 
一度は引き下がった古座だが、すぐに別の理由でまた雪間に詰め寄った。

「てか、どうしてギリギリまで赤尾の弱み握ってたこと俺に教えてくれなかったんだよ! 俺、かなり心配してたんだぞ!」
「あいつを追い詰める証拠が集まるまでは、俺の動きに勘づかれる可能性はできる限り潰しておきたかったんだ。お前は口が軽いからな」
「ひ、酷い……じゃあ証拠は? いつあんなの見つけてきたんだよ?」
「夜遅くに帰ってきた日があっただろ。お前がキスせがんできた時」
「せ、せがんだっていうか、あれはそういう流れでやっただけだし!」
「その帰ってくる前にあいつの事務所に忍び込んで、データを盗んできた。パスワードは前にそれとなく盗み見ててな、簡単に解除できたんだ」
 
得意げに話す雪間だが、赤尾の自宅にあったパソコンも同じパスワードで開くと踏んでしまったせいで、失敗した上にハメ撮りを古座の携帯に送られてしまったことは話さなかった。そんなこととは露知らず、古座は素直に感心して、子供のように目を輝かせていた。

「へー、マジで泥棒かスパイみたい! なあなあ、俺にもなんか使えそうなテクニック教えてくれよ!」
「お前は不器用だから無理だよ」
 
笑いながら眉間を小突くと、古座はムッと頬を膨らませ、子供っぽい仕草で不満をあらわにする。その様子に雪間はなおさら笑いを誘われた。
 
数日前までのぎこちなさが嘘のように会話が弾む。様々なことがあったせいか、二人の距離は以前よりも近くなっているようだった。
 
そんな和気あいあいとした雰囲気の中、ふと雪間は目を伏せて、気になっていた質問を古座へぶつけた。

「なあ……お前、赤尾の送った写真とか、本当に見てないんだよな?」
「心配性だなあ。ホントに見てないってば」
「そうか。でも嫌じゃないのか? そんなの撮らせるような人間ってことなんだぞ。それにあれを見たら、お前も幻滅するかもしれない……」
「しないってば!」
 
雪間の迷いを振り切るように、古座は力強く答えた。

「そんなので幻滅するくらいだったら今も一緒にいないよ。俺が今までどんだけ雪間さんの恥ずかしいとこ見てきたと思ってんの? マジで引くほど見てきたせいでもう慣れっこだっての」
「お前励ますつもりはあるのか?」
「あるある。俺は雪間さんが目の前でオナニーしてても今さら引かないから安心しろよ」
「人が甘い顔したら調子に乗りやがって」
「まあまあそう怒んなよ。それじゃ、これで全部解決したわけだし、今日はパーッと飲みに行こうぜ!」
 
古座は誤魔化すような笑みを顔に浮かべ、ガシッと力強く肩を組む。やめろと文句を言う雪間も、内心満更ではない様子で古座の背中をポンポンと叩いていた。

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あきゅろす。
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