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シリーズ
13
二人の間のわだかまりも解け、雪間は次の日には古座を引き連れ赤尾の家を訪れていた。いつもここを訪れるたび重くなっていた足取りも今は軽く、あっという間に赤尾の部屋の前へとついてしまった。
 
雪間が古座の方をチラリと見ると、古座も無言でそれにうなずき、ドアに取りつけられた覗き穴から見えないよう壁に張りついた。二人はアイコンタクトを送りあい、それぞれ事前の打ち合わせ通りの行動をとった。

まず雪間が呼び鈴を押して赤尾を呼び出す。声はしなかったが明らかに部屋の内側からは誰かが来ている気配がした。
 
無言のままドアノブが回り、ガチャガチャと金属の擦れあう音がする。それと同時に、雪間は素早く古座と立ち位置を入れ替わった。

「先輩、やっぱり来ると思ってました……」

扉が開き、ヘラヘラと軽薄な表情の赤尾が現れる。しかしその顔は目の前に立っていたのが雪間から古座に代わっていたことで、酷く混乱した表情に変わった。
 
赤尾は何か言おうとしたが、すかさず古座が鳩尾へこぶしを叩き込み、部屋の中へと押し入った。雪間もそれに続いて玄関へと足を踏み入れ、素早くドアを閉めた。

「よう、雪間さんがずいぶん世話になったみたいじゃん」
 
古座は沸き立つ怒りを抑えながら、今にも怒鳴りだしそうなのをこらえて皮肉っぽくそう言った。

「うっ、くっ……い、いきなり何のつもりっすか?」
 
鳩尾を殴られえた痛みに顔を歪ませながら、赤尾は座り込んだまま雪間と古座の二人を見上げる。もはや隠すこともなく、その顔には分かりやすく敵対心の色が浮かんでいた。
 
古座はもう一発打撃を食らわせようかと腕を振り上げたが、雪間にその腕をつかまれ、止められた。
 
どうして止めるのかと不満顔な古座だったが、雪間の表情を見るとそれを尋ねる気も失せてしまった。

「今日はお前に用があって来たんだ。早く立て」
 
赤尾を見下ろす雪間の顔は、何よりも悪意に満ちていた。
 
二人は家へ上がり込むと、赤尾をリビングのソファーに座らせて、その前に立ち塞がるようにして赤尾のことを見下ろしていた。しかし赤尾もこの状況になってもまるで動揺する様子を見せず、さっきとは違って考えの読めない無表情を貫いていた。雪間の弱みを握っていることからくる余裕がそうさせているのだろう。

「挨拶の割にはずいぶんと手荒っすね。一体何のつもりなんですか?」
「お前にしてもらいたいことがあって来たんだ」
「ハハ、それが人に物を頼む態度とは思えないっすね。もしかして相方君使えば俺の口封じられるとでも思ったんですか?」
 
赤尾の目つきがより一層険しくなる中、その瞳に悪趣味な愉悦が浮かんだ。

「変態のくせに態度はでかいんですね! 相方君も見たでしょ、先輩の気持ち悪い写真と動画。こんな変態と一緒にいると、何されるか分かんないっすよ!」
「うるせえ!」
 
安い挑発とは分かっていても、直情的な古座は我慢できずに赤尾を殴ってしまった。だが殴られてもなお、赤尾の口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

「そんなにムキになるってことは、思い当たる節はあるってことなんじゃないっすか? 先輩は君が思ってるほどまともな人じゃないっすからね。早いとこ見切りつけた方が自分のためっすよ」
「雪間さんはそんな人じゃない! お前が無理矢理させたんだろ!」
「どうだか。現に先輩は昔のこと何も教えてなかったみたいじゃないっすか。そんな人間信じて大丈夫なんですか?」
「てめえっ、いい加減に……!」
 
もう一度こぶしを振り上げようとする古座を雪間が制した。

「もういい、このままじゃ話が進まない」
 
雪間が古座をうしろへ下がらせ、自ら前へ出てくると、赤尾の顔からそれまであった余裕の笑みが消えた。雪間に何か切り札があることを肌で感じ取っているようだ。
 
しかし雪間はそれをおくびにも出さず、自分の要求だけを端的に伝えた。

「俺のハメ撮りを全部消せ。それともう二度と関わるな」
「言う通りにしたら俺のこと解放してくれるんですよね?」
 
赤尾は二人の目の前で携帯に入っていたデータを消すと、席を立ってパソコンに入っていたものも消してしまった。

「さっ、これで全部消しましたよ。だからもう出て行って――」
「そんな嘘が通用すると思うなよ。まだどこかに隠してるんだろ」
「嘘じゃありませんってば。俺を疑うんですか?」
「そうか。素直に言うことを聞くとは思ってなかったが、それだったらこっちにも考えがある」
 
雪間は懐から一枚の紙を取り出すと、声高々にそこに書かれた名前を読み上げていった。読まれていく名前は男女入り混じり、一見繋がりはないように思える。

しかしそれを聞いた赤尾の表情は、見る見るうちに強張っていく。そして雪間が紙に書かれた名前をすべて読み終わると、瞬きを何度もして珍しく焦りを覚えているような仕草を見せた。

「お前、ゆすり屋もやってたのか。ずいぶんたくさんカモを見つけてきたもんだな」
「ど、どこでそれを知ったんですか」
「別に、事務所のパソコンから見つけただけだよ。単純だろ?」
 
夜中、事務所に忍び込んだこと。盗み見たパスワードでパソコンのロックを解除したこと。雪間は事もなさげにそう言って、ゆすりの他にも赤尾の行った犯罪スレスレの行為などを羅列していった。

証拠もあると言わんばかりに、盗聴などのデータが入ったUSBを掲げて見せる。これだけ証拠を上げられてしまえば、もはや口から出まかせと疑う余地もなかった。

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あきゅろす。
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