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シリーズ

「こいつは強力だな。先生、入ってもいいぞ!」
 
ボスが先生とやらに部屋へ入るよう言うと、扉が開けられ小さな人影が現れた。

カーキ色のコートにつばの広い黒の帽子、まだ幼さの残るその顔は、以前シュヴァルツや俺を襲ってきたあの子供だった。

「先生の薬、ずいぶんよく効いてるな。これならしばらくは奴も動けないだろうよ」
「ああ、一時間はあのままのはずだ。でも念のため、縛り上げておこう」
 
子供はそう言って懐から鎖を出すと、前と同じように呪文か何かを唱え、ひとりでに動く鎖で俺を縛って身動きを取れなくした。
 
それを見ていたボスは口笛を吹き、興味深そうに勝手に動く鎖を見ていた。

「な……なん、で、お前が……ボスのところに、いるん、だ」
「お前を捕まえるためだ。ただ追いかけていても、すぐに逃げられるからな。ここで待ち伏せをした方が、捕まえられる確率が高いだろ」
「こっちとしちゃあ、吸血鬼相手に無駄な犠牲も払いたくないからな。先生は吸血鬼退治のプロだと言っていたし、互いに利害が一致したってわけだよ」
 
俺は裏切られたショックで、なんでもいいからとにかくわめき散らしたい衝動に駆られた。

しかし体どころか口すらも動きが鈍くなってきて、しゃべることは困難になった。
 
そのうち体が石にでもなったんじゃないか、というくらい動かなくなってきて、俺の意識は意思に反してここで途切れてしまった。





遠くでガヤガヤと騒がしい声が、俺を呼んでいる。

このまま眠っていたかったが、そういうわけにもいかず重たいまぶたを無理矢理押し上げた。

「あっ、こいつようやく起きたぞ。おい、まだ目ぇ覚めてないみてえだから、水でもぶっかけてやれ」
 
酒焼けした無駄にでかい声が、頭の中にキンキン響く。と同時に頭から水を浴びせられ、俺はあっという間に全身ずぶ濡れになった。

「冷てえ! 何しやがるんだてめえ!」
 
俺は怒りに任せて腕を振り上げようとしたが、頑丈な拘束具に阻まれ身動きすることすら叶わなかった。

両手両足を鉄の枷で戒められ、手は後ろ手に拘束されている。上手いこと体が動かないのは、まだ盛られた薬が抜け切れていないのだろう。

気づけば俺は納屋のようなところにいて、周りにはボスの配下のゴロツキどもが六人ほど、身動きの取れない俺に好奇の目を向けている。

その後ろでは、あの子供が何やらボスの部下ともめていて、無理矢理こちらへ来ようとするのを止められていた。

「どけ! あの吸血鬼は捕まえたら僕に渡すんじゃなかったのか!」
「悪いな坊主。そう簡単な問題じゃないんだよ。あいつはうちが始末しとくから、金だけもらって出ていけ」
 
部下は子供の懐に札束を一つねじ込むと、無理矢理外へ押し出した。

なんであいつが大人しく人の言うことを聞いているのか疑問だったが、振り上げかけた腕を引っ込めたところを見て、なんとなく合点がいった。
 
あの子供はきっと人間には手を出さないと、心に誓っているんだ。じゃなきゃここにいるゴロツキどもは、今頃血の海に倒れているはずだ。

そんなことをぼんやり考えていた俺に、あの酒焼けした声が怒鳴りつけてきた。

「お目覚め見てえだな、犬公。飼い主に捨てられた気分ってのはどんな感じだ?」
 
嫌らしい笑みを浮かべ俺に話しかけてきたのは、いつも俺に突っかかってくる三下の殺し屋だった。

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