シリーズ 2 数日後、雪間と古座はメモの電話番号の相手から指示され、寂れたビルの前に来ていた。 「雪間さん、ホントにここでやるの? なんていうか、思ってたのと違うなー。AVじゃなくて心霊ビデオ撮るってんなら納得できるけど」 「場所は確かにここであってる……はず」 「はずって……なんか怖くなってきちゃったな。マジで大丈夫なの?」 不安を隠せない古座はすがるように雪間を見るが、当の雪間も言いようのない不安を抱いているようだった。しかし今さら仕事を断るわけにもいかない。 二人は重い足取りでビルの中へ入ると、目的の階を目指し廃墟のようなビル内部を進んで行った。 暗い廊下を突き進む二人は、目的の部屋の前で足を止めた。中からは数人の男の声が聞こえてくる。雪間が扉をノックすればその声はピタリとやみ、「どうぞ」と男の野太い声が聞こえてきた。 「やあ、君たちが今日手伝ってくれる雪間君と古座君だね? 俺はここの責任者の木岡(きおか)だ。まあまあ、そこに座っていてくれ。準備は終わったんだが、まだ撮影開始までだいぶん時間があるんだ」 部屋に入って早々雪間と古座にそう言ってきたのは、恰幅のいい髭面の男だった。部屋の中には木岡と名乗るその男以外にもスタッフらしき男が三人いて、部屋に入ってきた二人をジロジロと見つめている。 雪間も古座も男たちの妙な視線に気分を悪くしつつ、それでも促されるままパイプ椅子に座り、注意深く部屋の中を観察した。 窓は外の光を入れないようにするためか、段ボールで覆われ目張りされている。殺風景な部屋にはパイプベッドが一つとライトが一台、そして三脚に固定されたカメラがベッドの周りに様々なアングルで五台も設置されていた。 「定点カメラで撮影するんですか? 普通ならこうやって、カメラマンがカメラ持って撮影するもんでしょ?」 古座はビデオカメラを構えるようなポーズを取りながら、木岡に尋ねた。 「まあ今回はちょっと色々あってね。それより喉は乾いてないかい? コーヒーでよかったらあるけど」 木岡は古座の質問に曖昧な答えを返しながら、話をそらすようにコーヒーを勧め、スタッフの一人にコーヒーを淹れるよう指示した。 指示されたスタッフは部屋の隅に置いていた箱からインスタントコーヒーや紙コップなどを取り出し、こそこそと隠れるようにコーヒーを淹れている。 「それで今回の仕事の内容は、まあ片づけとかの雑用がメインかな。カメラに映ることはないから安心して、ハハハッ。でも君ら二人ならビデオに出ても全然OKだけど」 「それって相手は女のビデオっすよね? 男にケツ掘られるのだけは勘弁ですよ、アハハ」 木岡と笑い合う古座だが、その目は少しも笑っていない。木岡の言った冗談がどことなく冗談に聞こえなかったからだ。それは雪間も同じようで、不信感をできる限り押し殺した顔で、談笑している木岡を見ていた。 「ところで君たちってどういう関係なんだ? 友達というにはちょっと距離が近い気もするけど」 ニヤニヤと尋ねてくる木岡に、雪間も古座も顔には表さないものの気分を悪くする。 「別に、なんでもないですよ。ただの仕事上のパートナーです」 素っ気なく、できるだけ冷たくそう言った雪間だが、木岡はなおのことニヤニヤしている。明らかに不審な様子に、雪間も古座も一種の気味の悪さを感じては、互いに顔を見合わせていた。 そんな折、スタッフが紙コップに入ったコーヒーを持ってきたので、勧められるまま二人はそれに口をつけた。苦みを舌に感じながらまだ熱いそれを飲み込むと、不思議と体の奥が熱くなり、やがてその熱は体全体へと広がっていった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |