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走って

小太郎が首を傾げると、「すまんかった」と院長は笑った。

「…今日は私が連れ帰るが、異論は有るかね?」

低い声を出し松永が聞くと、院長は首を横に振った。

「おぬしに連れ帰ってもらうのが良かろう…」

施設はあの様じゃし、と少し寂しげな顔をして院長は言った。

「コタロウ、良い子にするじゃぞ?」

コクッと小太郎が頷くと、うんうんと院長は髭を一撫でした。

「ほら、卿は私の家に行くのだよ。乗りなさい。」

松永に手を引かれ、小太郎は大人しく後部座席に乗り込んだ。

今日は酷く疲れた、もう寝ようなどと考え、小太郎は目を瞑った。

「…卿は実に可愛い子だ。よく眠るがいい」

松永は笑んで、呟くように言った。

…すーすーと、寝息が聞こえた。

--

家に着いても、相変わらず小太郎は眠っていた。

仕方なくソファに寝かせ、毛布をかけた。

怪我を手当するために靴下を脱がせると、片足には割れた小さなガラスが刺さっていた。

「…まったく、無理をする」

ピンセットでそれを抜き、消毒液をかけながら丁寧に傷口を拭いた。
「っ!?」

消毒液が染みたらしく小太郎は飛び起きた。

「こら、卿の傷の手当をしているのだ」

逃げようとした小太郎の腕を掴み、松永は声が荒くならないよう気をつけて言った。

「…………」

恐る恐る座り直し小太郎は松永の表情を窺った。

(…おこってる?)

怒らせてしまっていたらどうしようか。

また打たれるだろうか。

不安に思いながら見ていると、松永と目が合った。

「…そんなに心配するでない。じっとしていれば良いのだ。怒ってなどいないよ」

小太郎の心を読んだかのように、松永は言った。

心なしか、口角を少し上げてくれた気がする。

慌てて小太郎がぺこりと頭を下げると、松永はその頭を撫でた。

「あとで頬にもシップを貼ろう」

「〜〜!!」

傷口に薬を塗りながら言うと、小太郎は嫌々と首を振った。

「心配するでない。シップはこんなに染みないよ」

ガーゼで押さえ、包帯をまくと、小太郎はホッとしたように脱力した。

「…卿は、いつから話せないのだ?」

「?」

松永は、まだ小太郎が声を出せた頃に施設を訪れたことがあった。


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