走って
6
小太郎が首を傾げると、「すまんかった」と院長は笑った。
「…今日は私が連れ帰るが、異論は有るかね?」
低い声を出し松永が聞くと、院長は首を横に振った。
「おぬしに連れ帰ってもらうのが良かろう…」
施設はあの様じゃし、と少し寂しげな顔をして院長は言った。
「コタロウ、良い子にするじゃぞ?」
コクッと小太郎が頷くと、うんうんと院長は髭を一撫でした。
「ほら、卿は私の家に行くのだよ。乗りなさい。」
松永に手を引かれ、小太郎は大人しく後部座席に乗り込んだ。
今日は酷く疲れた、もう寝ようなどと考え、小太郎は目を瞑った。
「…卿は実に可愛い子だ。よく眠るがいい」
松永は笑んで、呟くように言った。
…すーすーと、寝息が聞こえた。
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家に着いても、相変わらず小太郎は眠っていた。
仕方なくソファに寝かせ、毛布をかけた。
怪我を手当するために靴下を脱がせると、片足には割れた小さなガラスが刺さっていた。
「…まったく、無理をする」
ピンセットでそれを抜き、消毒液をかけながら丁寧に傷口を拭いた。
「っ!?」
消毒液が染みたらしく小太郎は飛び起きた。
「こら、卿の傷の手当をしているのだ」
逃げようとした小太郎の腕を掴み、松永は声が荒くならないよう気をつけて言った。
「…………」
恐る恐る座り直し小太郎は松永の表情を窺った。
(…おこってる?)
怒らせてしまっていたらどうしようか。
また打たれるだろうか。
不安に思いながら見ていると、松永と目が合った。
「…そんなに心配するでない。じっとしていれば良いのだ。怒ってなどいないよ」
小太郎の心を読んだかのように、松永は言った。
心なしか、口角を少し上げてくれた気がする。
慌てて小太郎がぺこりと頭を下げると、松永はその頭を撫でた。
「あとで頬にもシップを貼ろう」
「〜〜!!」
傷口に薬を塗りながら言うと、小太郎は嫌々と首を振った。
「心配するでない。シップはこんなに染みないよ」
ガーゼで押さえ、包帯をまくと、小太郎はホッとしたように脱力した。
「…卿は、いつから話せないのだ?」
「?」
松永は、まだ小太郎が声を出せた頃に施設を訪れたことがあった。
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