走って
5
「…何にせよ、今日は私の家に泊まりなさい。院長には私から言おう」
松永は近づき、ゆっくりと抱き上げた。
「血が出ているではないか…まったく、卿は無理をする…」
足をバタバタさせ抵抗した小太郎が膝を曲げたところで、足を捕まえ足の裏を見た。
真っ黒になった靴下の裏が1ヶ所だけ湿っていた。
「…帰りに、消毒液を買わないといけないな」
松永の指が傷に触れ、小太郎は怖くなった。
一層強くなった抵抗に、小太郎を落としそうになりながら後部座席に乗せた。
「安心しなさい。私には卿を苛める気はないよ」
シートベルトをしめさせ、松永は運転席に乗り込んだ。
「…………」
バッグミラー越しに、たまに小太郎を見る。
ちんまりと座席に座り、俯いていた。
「………ん?」
施設の前から、ちょうど救急車が走り去っていった。
赤い光を見送り、施設の前に車を停めた。
「卿の仕業か?…」
理由もなく暴力を奮う子には見えないが、何も反応を示さないことを考えると、小太郎が何かやったのだろう。
松永はため息を吐いて車を降りた。
「…………」
施設の職員と、何か話している。
小太郎はチラリとそれを確認すると、シートベルトを外した。
松永は冷静そうだが、施設の職員はあからさまに怒っている。
(こわい…)
あまり音がたたないようゆっくりドアを開けると、小太郎は車を降りた。
「コタロウかの?」
院長の声だ。
…見つかってしまった。
小太郎はその場に立ち尽くし、動けなくなってしまった。
「心配しておったのじゃよ。どうしたんじゃ?」
小太郎の顔を覗き、院長は驚いた顔をした。
「…腫れておる…誰にぶたれたんじゃ?」
心配そうな顔をされ、小太郎は戸惑った。
怒られるとばかり思っていたのに、心配された。
こういう時は、どう反応すればいいのだろうか。
黙り込む小太郎の頭を撫でようと、院長が手を伸ばした時、「少し話を」と松永が後ろから声をかけた。
院長は手を引き、松永の方を向いた。
「分かっておる…コタロウは悪くないじゃろう…」
「ほう。それは私も同意見だが、卿の施設の人間は、そうは思っていないようだが?」
チラリとそれを確認し、院長はため息を吐いた。
「悲しいことじゃが、そのようじゃ…」
小太郎の頭を撫で、院長は悲しそうな目をした。
「コタロウが、理由無く人を傷つけるような子に見えるのかね…」
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