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なんちゃって平安時代の妖怪パロ(※戦ムソ)
9

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一面白の大地に、突然ふたつの影が顕現する。雪原に降り立った三成は咄嗟に裸足の足を引っ込めた。

「冷たっ!」

ぴょんと飛び上がり、そのまま空中で狐火を出現させると腰を下ろす。次いで着地した幸村は平然とした顔で辺りを見回した。
京の都では大雨に見舞われていたが、さすがは豪雪地帯の越の国、人里の方まではわからないが、これくらいの標高があれば辺りはすっかり雪景色である。空からも白い結晶がちらちらと舞い落ちていた。
この辺りにしては積雪とも呼べないほどの雪の量かもしれないが、都の人間が見たら驚いて腰を抜かすかもしれない。京にも雪は降るがこれほどの量になれば十分大雪の部類だし、少なくともこのような冬の入りという時期に降雪はありえないのだ。

「そういえば、三成殿は越後にいらっしゃるのは初めてでしたね」

足を擦っている三成を見やって、幸村が目を瞬かせる。彼はついこの間まで都近くの山に封じられていたのだから当然のことなのだが、すっかり失念していた。これだけの雪を見るのも初めてだろう。
だが、今は時間がない。別に雪見をしに来たわけではないのだ。
彼らの目の前には注連縄を結ばれた巨木があり、一歩前に進み出た幸村は大樹を見上げて一つ息を吸い込む。

「――綾御前!どうかお出まし願いたい!」

吐き出す息は白く、いくら外気温に疎い妖といえど肌寒さを感じる山の中に朗々と声が響いた。いくつかの木霊が帰ってきて、耳鳴りがするほどの沈黙が訪れる。少しずつ雪が積もる音が、妖たちの鋭い聴覚にははっきりと届いていた。
更に数拍後、巨木の前に怜悧な妖気が集まり始める。宙を舞っていた雪が風に煽られて渦を巻いた。
それが収まった頃、吹き荒ぶ風と雪のために顔を覆っていた腕を退かすと、巨木の前に痩身の女性がひとり佇んでいた。白い衣に身を包んだ佇まいからは威厳が感じられ、口元に引かれた紅と艶やかな黒髪が目を引く。徐に閉ざされた瞳が開いて、表情に柔和な笑みが浮かんだ。
この笑みを見た人間は、次の瞬間には冷たく凍て付き二度と目覚めることはない。彼女はこの山の主、雪女だ。
幸村と三成は同時にその場に跪く。

「御無沙汰しております、綾様」

「まあ幸村、随分と久しぶりだこと。元気な顔を見られて、わたくしは嬉しいです」

冷たさを感じるほどの美貌に違わぬ、鈴を転がすような声音が紡がれた。幸村と三成、それから兼続に視線を移し、不意にその双眸が僅かに見開かれる。
すうっとその姿が掻き消えたかと思うと、即座に幸村の目の前に降り立って膝を折った。

「兼続…!」

白魚のような手を兼続の頬に添え、綾御前は傷の具合を確かめるように視線を動かす。彼女の白い手に劣らず、兼続の面差しには全く生気が感じられなかった。
幸村がそのままの姿勢で出来る限り低頭する。

「我々では兼続殿を助けることは叶いませぬ。綾様、どうか…!」

綾御前は言い募る幸村を止めるように手を翳し、被いた衣の下で静かに双眸を閉ざした。すると、ぴきぴきと高い音を立てて傷口が凍り始め、流れ続けていた鮮血が止まる。傷を全て氷で覆ってしまうと、驚くふたりの目の前で綾御前は血に塗れた四角形の紙切れのようなものを取り上げた。

「どうやら、これのおかげで命拾いしたようです。呪符、でしょうか」

僅かに血に染まっていない部分から、墨字で書かれた五芒星の端が見える。幸村と三成は目を見開いた。
あの呪符を扱えるのは陰陽師しかいない。あの場にいた陰陽師は、政宗だけだ。
横目で目配せしあう二人を見て、綾御前はくすりと笑みを零す。

「兼続が人の子の麾下となったことは、わたくしもこの地から視ていました。どうやら、よき主に恵まれたようですね」

安心しました、と続ける声音に、三成は僅かに唇を噛んで顔を上げた。

「綾御前、僭越ながら申し上げたい」

ゆっくりと首を巡らせ、そのまま軽く傾げる。そういえば、三成は彼女と直接に会うのは初めてなのだ。
挑戦的な視線を向けたままで改めて口を開いた。

「お初にお目にかかる。我は九尾の狐、名を三成と申す。此度兼続が負った傷は、これを従えた無力な術者を敵襲から庇ったゆえのもの。力が抑圧されていたことも含めて、全ての責は術者にあり。それをよき主と評すは、一体どのような御心積もりであらせられるのか」

慇懃無礼極まりない物言いを聞いた幸村は、さあっと血の気が引いた。普段の彼の口調で訳せば、「無能な陰陽師のせいで兼続が怪我をしたというのにそれをよい主とはどういうつもりだ貴様」ということである。
綾御前は雪女という妖のくくりだ。しかし嘘か真か、とある武神の血を継いでいると以前兼続が言っていた。彼女が持つ凄まじい霊力を考えれば、あながち嘘ではないような気がしている。幸村たちのような妖とは根本から異なる存在ということになるのだ。
要するに、一介の妖風情が機嫌を損ねればただでは済まない。
だが幸村の心配を余所に、綾御前はおかしそうに喉の奥で笑った。

「人の子の麾下となったのは兼続自身の意思です。貴方達もそれをわかって、その意思を尊重していたのでしょう?」

何もかも見透かしていると言わんばかりの言葉に、三成が唇を噛む。
たしかに彼女の言う通りだ。しかし、このような結果を求めたわけではない。こんなことになるなら、無理にでも止めておけばよかったのだ。
物騒なことを考える三成の思考とは対照的に、綾御前の口調はどこまでも落ち着いている。

「それに、主の命を守るのは式の使命でもあるのですよ。たとえ自らが盾になろうとも。むしろ、術者がそのまま兼続を見捨てず手当までしたのならば上出来とわたくしは考えますが」

あくまで柔和な笑みを崩さない雪女に、三成は牙を剥くと周囲に狐火を顕現させた。

「同胞を傷つけられてよくもそのような世迷言を!貴方ほどの力があれば、式と主の契約など断ち切ることは容易いはず!すぐにでも…」

「うろたえ者」

鋭い声と同時に、きん、と空気が張りつめる。途端に三成は息を呑み、そのまま気勢を削がれて押し黙った。収めたわけではないのに、凄まじい霊気に呑まれて狐火が勝手に消えていく。
口を開閉しても、喉の奥で声が絡まって言葉にならない。綾御前は金の瞳を見開く狐を冴え冴えとした目で見下ろした。

「兼続がそれを望むと本気で思っているのですか?口出しをする権利は誰にもありません。あの二人が結んだ絆を無理に断ち切るなど以ての外」

不意に霊力を消し去った綾御前は、視えない圧力から解放されて息を吐き出す三成に視線を合わせると優しい笑みを浮かべる。

「兼続を心配してくれているのですね。その気持ちはわたくしもとても嬉しく思いますよ、三成。よき主と、よき友…二つを同時に得て幸せ者ですこと。ですが、友であるからこそ、兼続をもう少しだけ信じてはくれませんか?」

はじめて、三成は綾御前から目を逸らした。返す言葉が全く思いつかなかったのだ。
決めたのは兼続。だから、出来る限りその意思を尊重しようと、幸村とふたりで決めたのだ。しかし心のどこかで、解放してやりたいとずっと思っていた。たとえ彼がそれを望まなくても、とても見ていられないと思うようなことが何度もあったから。
自由の身になれば、元の力を取り戻せる。そんなことは兼続とてわかりきっていたはずだ。だが、敢えてそれをしなかった。その理由は、三成にも幸村にもまだわからない。
わからないのなら、信じるしかないではないか。
唇を噛みしめた三成は徐に左手に狐火を出現させた。ぐ、と何かを握る動作をすると、狐火はすぐに掻き消える。
その手には真っ二つに折れたままの兼続の錫杖が握られていた。思わず幸村が目を見開く。怪我をした彼をなんとか助けなければという気持ちが先走ってすっかり失念していたが、三成はいつの間に回収していたのか。
折れた柄を揃えて、捧げるように持ち替える。

「こちらも、治していただけるか」

流れるような動作で錫杖を受け取り、綾御前は静かに頷くと口の端に笑みを乗せた。

「これはわたくしが兼続に授けたもの。治せないことがありましょうか」

静かに頷く三成と隣で安堵の溜息をつく幸村を見やってから再び立ち上がる。
ふわりと浮きあがった兼続の身体はそのまま白い烏の姿へと成り代わり、綾御前が広げた腕の中に容易く収まった。愛おしげな様子で右の翼を撫でてやる。

「命は繋ぎとめましたから、もう心配はいりません。ですが、暫く休息が必要でしょう」

烏を片腕に収め、綾御前は拍手を打った。
その背後に影が一つ顕現する。

「御前、お呼びですか」

現れたのは短い金の髪を持つ、精悍な顔立ちの人魂だった。予想外のことに幸村と三成が目を瞬く。
綾御前は男に白い烏をそっと手渡した。

「これを、泉まで連れて行きなさい」

「承知致した!」

明るい声音を返して頷いた男は、そこで漸く鬼と狐の存在に気付いたらしい。目を瞬かせてふたり交互に見やると小首を傾げた。

「御客人でございますか?」

「以前話した、三大妖のうちの二妖ですよ」

「おお!彼らが!」

きらきらと目を輝かせ、男は満面の笑みを浮かべてふたりに頭を下げる。

「某、浅井長政と申す!以後お見知りおきを!」

反射的に頭を下げ返す幸村をおかしそうに見やって、綾御前はすうっと掻き消える。霊力も完全に無くなった。どうやら戻って行ったらしい。
無意識に入っていた肩の力が漸く抜け、幸村と三成は思わず息を吐いた。

「三成殿、肝が冷えましたよ……」

珍しく責めるような口調は、あの危うい応酬のことを言っているのだろう。心臓に悪いとはまさにこのことだ。
完全に気迫に呑まれてしまったために言い返す言葉もなく、三成は誤魔化すように一つ咳払いをした。

「それはともかく、あの男…」

ふたりは佇立したままの長政を見やった。
生身の人間のような姿を持っているが、あれは間違いなく人魂である。妖ではないが、人間でもない中間的な存在だ。
三成は少し考えてから長政に歩み寄って腕を組んだ。

「何故こんなところにいる?迷子か?見たところまっとうな人間の魂のようだし、何なら川岸まで連れて行ってくれる奴がここにひとりいるんだが」

「はい?」

肩越しに三成が親指で指し示す。突然話を振られた幸村は自分を指差して首を傾げた。
人魂は一歩間違えれば妖たちの世界に引き込まれてそのまま悪霊と化してしまうこともある。今は綾御前の霊力によって浄化されているこの山にいるために何ともないようだが、此岸に長居すればするほどその危険は高まるため、そうなる前に川を渡らせるのが鬼の役目なのだ。
長政は目を瞬かせていたが、片手を後頭部に回して照れたように笑った。

「いやあ、お恥ずかしい話、迷子というのも否定できぬのですが……実はある方を探しているのです。彷徨っていたところを綾御前に見つけていただき、お世話になっている次第」

「なんだ、じゃあ地縛霊か貴様」

「三成殿……もう少し包んでこう、遠まわしに言いませんか」

直球すぎる物言いに思わず幸村が小声で耳打ちしたが、本当のことだろうがと切り捨てて取り合わない。
人間の魂が何かを探して彷徨っている場合、ほとんどは愛する者を置いて先立ってしまったとか、老いた親よりも先に不慮の事故で死んでしまって心配で死にきれないとかそういうものが多いのだ。暇潰しに幸村がそんな話をしてくれたことがあったため三成も知っており、今回もその類かと推測している。
とはいえもう少し言い方というものがあるだろうと幸村は思ったのだが、当の長政は気にした様子もなく曖昧に笑って首を横に振った。

「この世に未練はありませぬ。ですが…かの方を見つけるまで、某は川を渡るわけにはいかないのです」

では、と一礼し、長政は烏を大事そうに抱え直すとその場から消える。取り残されたふたりは顔を見合わせて目を瞬かせた。

「あれ、放っておいて良いのか」

人魂を彼岸に導くのは幸村たち鬼の役目であり、義務でもあるのだ。基本的には例外はなく、無理矢理にでも連れて行かなければならないのだが。
幸村は瞑目すると眉間に皺を寄せ、うーんと考え込んだ。

「あれだけ澄んだ魂ならば悪霊となることもなさそうですし…何より、綾様が匿っておられるとなれば、何か理由があるのかもしれません」

「では放っておくと」

「下手に此岸に未練を残すと残留思念が妖となることもありますから」

だから様子を見ることにします、と続け、幸村は一人でうんうんと納得した様子で頷いた。まぁ本人がいいと言っているならいいのだろうと三成も軽く首肯する。
ともあれ、用は済んだのでここに長居する必要もなくなった。兼続のことは心配だが、ふたりがここにいたところでできることはない。
何より、寒い。

「……そういえば」

ふと思い出した様子で、幸村が三成を見やる。

「あの水虎は、三成殿のお知り合いですか?」

ほんの四半刻ほど前のことだというのに、あの小川の傍での邂逅が妙に昔のことのように感じる。短時間で色々なことがありすぎた。
少し記憶を辿り、三成は肩を竦める。

「知り合いというほどではないな。お前が生を受けるよりもかなり昔に会った程度だ」

「しかし、名を呼んでいましたね。佐吉という名を知っているということは相当…」

妖たちにも、人間たちで言うところの幼名が存在する。一人前の妖となったときに真名を名乗るようになるのだ。
三成も幸村も兼続も、出会ったときにはそれぞれがもう真名を名乗っていた。ということは、三成とあの虎之助と呼ばれた水虎は、三成と兼続が出会うよりも前、彼が本当に幼い頃に出会っていたことになるのだろうか。
何か聞きたそうな幸村の様子に、三成は悪戯っぽく口の端を吊り上げた。

「昔の名など、真名を教えたくない相手に使うこともあるだろうが。お前のように堂々と名乗ってしまうのも危険だと思うぞ、弁丸?」

途端、一瞬硬直した幸村の頬が真っ赤に紅潮する。むず痒い感覚を振り払うように首を激しく横に振り、それでも赤い顔は誤魔化しきれず、そのまま三成に喰ってかかった。

「そ、その名で呼ぶのはやめてくださいと言っ…!」

「何がだ?俺はお前を心配して言っているのだが…何が不満なのだ弁丸よ」

「三成殿っ!」

情けなく眉尻を下げてわたわたと狼狽しまくっている幸村を見やり、思わず吹き出した三成は声を上げて愉快そうに笑った。いくら怒声を聞かされても耳まで赤くては迫力も何もない。
鬼たちにとって一人前になるまでの名というのは未熟な子ども扱いのような響きを持ち、真名を得たら捨てるのが普通なのだ。たまに老齢の鬼が若者をからかうときに使うのだそうで、幸村も三成たちに出会った当初は必死に隠そうとしたものだった。
しかし隠そうとするあまり、三成に悟りを使われたら一発でばれてしまったという悲しい過去があったりする。
それ以来たびたび幼名で呼ばれてはからかわれているのだが、いちいち反応が面白いからふたりがなかなか飽きない。わかってはいるが、どうにもこのむず痒さは何度呼ばれても拭い去れずに今のところ完全に遊ばれている。
ちなみに三成と兼続は幼名で呼ばれようが大して気にしないため、幸村からの反撃は残念ながら無意味であった。
照れて煙でも上げそうな顔を隠すように片手で額を押さえる幸村を見やって、三成は笑みを消さないまま腕を組んだ。

「冗談はともかくとして…お前の言うとおり、俺とあの水虎が出会ったのは九百年以上も前の話だ。大陸へ戻ったものと思っていたが、まだこの国をうろついていようとは」

やっと話が逸れたため、幸村は熱の上がった顔を冷ますように片手でぱたぱたと仰ぐ。三成は口元を手で覆って表情を引き締めた。

「目的を聞いておくのだったな…結局人間共の騒いでる案件に関してはあまり進展しないことになってしまった」

「そう、ですね…」

元はと言えば事件の犯人を炙り出し、目的を問い質してついでにやめさせるのが目的だったはずなのだがすっかり失念していた。それどころではなかった、というのが正しい。
あの様子では水虎の方も引き下がらないだろうし、これから更に被害が拡大するとみていたほうがいいだろう。陰陽師や術者が都には山ほどいるのだ。かと言って、全員水には近づくなというのも無理な話である。
難しい顔をして沈黙してしまった三成の肩を、幸村が強めに叩いた。

「三成殿、左近殿のことはそこまで心配せずとも大丈夫だと思いますよ。今のところ死者はいないのですし、左近殿はそれなりの術者です。自衛くらいは可能かと」

そうだな、と普通に頷きかけて、三成は眉を顰めて幸村を見やった。
怪訝そうな眼差しを受けた幸村が目を瞬かせる。

「待て、誰が誰の心配をしていると?」

「え?三成殿が、左近殿の」

ゆっくり言わんでいい。そう心の中でぼやいて、三成は盛大に溜息をついた。ずいっと背伸びして顔を近づけ、指差しながら幸村を睨む。

「だから、俺は同胞たちが人間からあらぬ誤解をかけられて無意味に祓われてはしのびないと考えているのだと言ったはずだが」

「しかし、あの場には左近殿も慶次殿も政宗殿もいて、ちゃんと様子を見ていました。犯人はわかったのですから、その心配は無用ではありませんか?」

きょとんとした表情でさも当然と言いたげに返され、三成はうっと言葉に詰まった。確かによく考えれば彼の言うとおりである。じゃあ俺は一体何の心配をしていたのか。
そもそも今回の事件は三成たちには全く関係のない人間たちの話で、ここまで深く考えてやる必要などどこにもない。兼続が負傷した以上、あの水虎にそれなりの報復くらいは考えているが、根底にある事件の心配をする理由にはならないではないか。
自分で自分が何をしたかったのかわからなくなって混乱しかける三成を見やり、幸村は安心させるように笑った。

「せっかく交友を深めたのですし、心を砕いた相手ならば人間であろうと心配して当然というものですよ。やはり三成殿はお優しい」

屈託ない笑みを向けられた三成は渋面をつくり、頭を抱えたくなる衝動を堪えた。普段は時々どころかしょっちゅう本質からずれた発言を平気でしてくれるくせに、たまに真理のど真ん中を突いてくるのだ、幸村は。今回もただ思ったことを素直に言ってみただけなのだろう。さっきの意趣返し、というような悪意が全くないのが逆にたちが悪いと少し思っているのだが、それを言ってしまうとさすがにひねくれている。
ぴしりと尾を振って、三成はあさっての方角を見やった。表情を窺うべく覗き込もうとした幸村の額を尾で軽く叩いてやると、あ痛っという全く痛くなさそうな声が聞こえてくる。
左手で額を擦りながらも、幸村は右手に槍を顕現させて軽く閃かせた。

「では、京に戻って水虎を探すとしましょうか。彼らが危険にさらされることは、私も本意ではありません」

幸村が膝を折ったので、三成は獣の姿に変化すると助走も付けずに肩にひょいと飛び乗る。
しっかり掴まってくださいね、と軽い調子で告げ、幸村は雪原を蹴った。


 


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