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永遠
空間、ふたり

俺は朝からイライラしていた。


「土方さん、例の組織の潜入捜査……いてー!!何するんですか!!!!」

「悪ィ当たったか」

「明らかにわざとですよね!?何でいきなり殴るんですか!?」

たまたま話しかけてきた山崎を殴りつける。



イライラ、していた。








「なまえとケンカしたからってー俺らにあたらねェでくだせェよ土方さん」

廊下をどすどす歩いていると、総悟に呼び止められた。
総悟は縁側で寝転がっている。

「おめェが一番ムカつくんだよ」

刀を振り下ろすと、さっとよけられる。

「なまえが気になって仕事も手につかねェってか。鬼の副長がそりゃいいや」

「いい加減にしろよ総悟」

「そんなに気になるんなら、さっさと会いに行けばいーのに」

「何で俺が…」

いっつも俺ばっかりがなまえに振り回されている気がする。

眉間に皺を寄せる俺に総悟は言った。

「だって、お隣さんじゃねーですかィ。」










居酒屋は閉店の時間になった。私の仕事も終わりだ。

「なまえちゃん、今日は飲まないのかい?」

「今日は…やめときます」


そう言いながら帰る支度を始める。
大将は心配げに私に言った。

「どうしたの?いつもより元気なくないかい?」

「そうですか?気のせいですよきっと」


実は自分でもそう感じていた。なんだかやる気がでない。
もしかして十四郎のことが原因なのだろうか。
だったら、とてもらしくない。


十四郎に怒鳴られるのはしょっちゅうだが、あれは本気で怒っていた。

触れてはいけないことに触れたって感じか。


「じゃあ失礼します」

大将にそう言ってドアを開けた。




「……遅かったな」

店を出ると、ドアの隣に十四郎が立っていた。

予想外の出来事だ。

…私を待ってたって言うの?

私は、十四郎を無視して歩き出した。


「おい、無視かよ」

十四郎は私の腕を掴んでパトカーまで引っ張って行った。

いつもの煙草の香りが漂う車内に入る。



「送ってやる」


十四郎はそう言ったっきり何も言わなかった。

私も何も言わない。


無言で運転する十四郎を横から見つめた。

…もう、怒ってないのかしら。
この男は謎だ。何があったのかは知らないが、人と一定の距離を保っている感じもする。

入ってくるなと、きっとこの前私はそう言われたのだ。

それは少しだけ悲しい気がした。

ほんの少し、だけ。






しばらくして、私の家の前についた。

車を降りようとすると、腕を掴まれて制された。
驚いて私は振り向く。


「……この前、悪かったな」

十四郎はぽつりと話し出した。

「…何が」

「だから…怒鳴ったりしてよ」



十四郎は下を向いている。表情が見えない。

泣くのを我慢している子供のように、私には見えた。

謝っているのは私に対してだけだろうか。それとも他の……………


この前の写真の人が、私の頭を一瞬かすめた。


「………また、謝るのね」

私は十四郎の頭に手を置く。髪を撫でると気持ちがいい。


「だから、十四郎は悪くないのよ。誰にだって詮索されたくないことはあるわ。私にも、ある。」

十四郎は何も言わない。黙って髪を撫でられている。


「自分が悪くないのに謝らなくたっていいの。……自分が悪くないのに、自分を責めなくてもいいのよ」


不意に、十四郎が顔を上げた。驚いた表情をする。


目が、合う。


今度は十四郎が私の髪に触れた。
武骨な指が毛先を滑る。


時間が停止したような空間。

私と十四郎との距離は30センチもなかった。


沈黙が訪れる。




どちらともなくお互いの唇が重なった。



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あきゅろす。
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