永遠 SとSの遭遇 「あー…面倒なこった…」 江戸の町をダラダラと歩きながら総悟は独り言を呟く。 それは30分前のこと。 いつものように仕事をさぼって縁側で昼寝をしていると、またいつものように土方が怒鳴った。 「総悟!!仕事しろ仕事ォ!!」 「なんです土方さん、俺の安眠を奪わねェでくれますかィ」 「昼寝してる暇があったら見回りにでもいってこい!!」 そう、彼は追い出されたのだ。 見回りなんてかったるい。仕事してるふりして町をぶらぶらするか。 そんなことを思っていたら団子屋の前に出た。 ちょうどいい。小腹が空いてきてたんだ。 「おっちゃん、みたらし3本ね」 店の主人にそう言うと、総悟は外に置かれている長椅子に腰掛けた。 全くこんな蒸し暑い日に外を出歩くなんて考えただけでも気が滅入るというのに、よくこんな仕事を押し付けたもんだ。 一体どうしたらあの土方を抹殺できるんだろうか。 そんなことを考えながら総悟は団子を口に運ぶ。 すると隣に女性が一人座ってきた。 髪の長い女性。自分よりも年上のようだ。 どっかで見たような気もする。 そう思ったが、すぐに気のせいだろうと思いなおした。 全て食べ終わった後も、総悟は町をぼんやり眺めていた。いい天気だ。やはり帰って昼寝がしたい。そう考えると再び土方への恨みがじわじわと込み上げてきた。 ああホントにあの野郎… 「どうしたらあの土方を抹殺できるのかしら…」 ん? 一瞬総悟は自分の心の声が漏れたのかと思った。 しかし、声の主は右隣のようだった。視線を隣にやると、彼女は何事も無いように団子を口に運んでいる。 「おねーさん…今なんていいやした?」 そう言うと彼女はその手を止め、はっとしたように総悟を見た。 「え?…あ、もしかして心の声漏れてました?気にしないで下さい、独り言です」 にこやかに返される。笑顔が逆に不自然だった。 まさかこの人わざとだろうか。俺の来ている隊服が見えない訳じゃないだろうに。 総悟は涼しげな表情の彼女を見ながらそう思った。 真選組の隊士の前で副長の抹殺の話なんて、フツーなら怒り出すだろう。 そう、フツーなら。 でも、気に入った。彼女同様、総悟も笑顔を向ける。 「おねーさん、少しお話しやせんかィ?」 「?」 「総悟…お前遅かったじゃねぇか…そんなに真面目に仕事してたのか?あ?」 夜、屯所に帰ってきた総悟にまたもや土方はご立腹のようだった。 全くいつも機嫌の悪い野郎だ。総悟は心の中で舌打ちをする。 「いやーすいやせん。ちと相談に乗ってたら遅くなっちまいやした」 「相談?」 「こっちの話でさぁ」 上機嫌の総悟に土方は訝しげな顔をした。気味が悪いとでも言いたげだ。 あんたは何も知らなくていいんでさァ。 総悟はもう寝ると言って部屋に戻って行った。 真夜中になり、屯所内は静まり返っていた。 どの部屋からも灯りは消え、みな眠っているようだった。 しかしそんな中、土方はまだ働いていた。やっと今日中の仕事が終わるところだ。最後の書類をまとめ、灯りを消すと静かに布団に入った。 目が冴えて中々寝付けないので、暗闇の中で今日一日のことを考えていた。 全く、総悟には困ったものだ。完全に俺をなめてやがる。今日も仕事に追われた日だった。 でもやっと眠れる。 一息ついて目を閉じた時だった。 …土方…死ね………土方… どこからか声が聞こえた。 普通なら怖がるところだが、この状況には覚えがある。 きっとアレだ。また総悟が外で藁人形を片手に呪いの儀式を開いているのだ。俺を抹殺するための。 土方は呆れつつもその儀式の中止させようと、布団から身を起こそうとした。 「!?」 だが、体が重い。上手く動かない。 すると暗闇の中に女の影が浮かび上がった。 布団越しに土方の体の上に乗っている。 暗くてよく見えないが明らかにおかしい。 こんな時間に自分の部屋に女がいるわけない。 なんなんだ、ホントに呪いか……!? さすがにコレには土方も恐怖を覚える。 するとその女は、土方の首に両手を伸ばしてきた。 凄い力で首を締め上げ、すぐに呼吸が出来なくなる。 「…やめっ……く」 このままではヤバい。 とっさにそう思い、土方は何とか枕元に置いていた刀を手繰り寄せた。 それで彼女の体を突き放す。 「…い…ったぁ」 お化けの類にしては間抜けな声だ。すかさず土方は立ち上がり、灯りを付けた。 「………お前」 「…」 そこに倒れていたのは、昨日お礼に来たと見せかけてケンカを売りに来たあの女だった。 「………チっ」 こっちを見ながら舌打ちなんかしている。 「どういうつもりだ……。警察で殺人未遂たァいい度胸じゃねーか…」 いい加減こっちだってキレるわ。 土方は立ち上がって彼女に近づいた。 「未遂…のはずじゃなかったけどね」 彼女は目線を外しながら呟いた。こんな状況でしれっとしている。 すると突然障子が開いた。 「総悟!?」 そこには総悟が立っていた。白装束に身を包み、手には藁人形と五寸釘が握られている。 やっぱり儀式じゃねぇか…。 「ちょっと総悟ぉ!!失敗しちゃったわよ!!」 彼女が総悟に向かって叫んだ。 「だからちゃんと寝るまでもう少し待てって言ったじゃねぇですかィ。なまえのせいでさァ」 総悟。なまえ。そう呼び合う二人。 「………お前ら、随分仲良しじゃねぇか……」 つまりはグルか。そう察した土方の眉間のしわは増すばかりだ。 どうしてやろうか、そう考えていると彼女に近づいて気付いた。 何か、 「なんかお前ら酒くせ……」 総悟は平気そうだが、彼女の方は顔も若干赤い。 「…飲んでたのかよ!!」 仕事もしないでこいつは………。 彼女は俺に向き直る。 「私は酔ってましぇん!」 「じゃあちゃんと喋れ」 もうそろそろ嫌だ…。ようやく休めると思ったのに…。土方は心身共に疲労を覚えていた。右手で顔を覆い盛大にため息をつく。 「総悟、もうお前寝ろ。俺は疲れた。続きは明日だ、覚えてろよ」 「あれ、そうですかィ?なまえはどうするんでさァ」 急に静かになった彼女を見ると畳に横になって寝息を立てていた。 「……こいつ…!!」 昨日と一緒だ。騒ぐだけ騒いでコレだ。 寝顔は安らかに、そして心なしか笑っている。 「土方さん、しゃあねぇや。どっか部屋で寝かしやしょう」 幸せそうに眠る彼女を見下ろしながら総悟が言った。 確かに、こりゃ起きそうもない。 しょうがないので空いている部屋に彼女を引きずっていくことにした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |