土方
二人の距離(前)
私は考えていた。
私って土方さんの彼女なのかしら。
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4日前、私に一本の電話がかかってきた。
電話をかけてきたのは、元カレの有紀。
元カレっていっても3年も前の話で、今は仲の良い男友達って感じだ。
『なまえ、今彼氏いるのか?』
「うん、いるよ。仕事場が同じなんだ」
『どんな人…だよ』
「え、なんで?」
『いや、別にっ……。お前ホントに彼氏いんのかよ……その………俺のことまだ好きなんじゃねーのお前!』
予想もしない言葉に驚く。
「はぁー違うに決まってるでしょ!私の彼氏はぁ、ニコチン中毒でマヨラーで、世界一かっこいいの!!
あんたとは比べ者にならないんだからー!」
そう言ってみれば、やつはすごいことを言い出した。
『………じゃあ会わせろよ』
「へ?」
『お前の彼氏に会わせろって言ったんだよ』
「何で急に…何言ってんのよ」
『何だ
よ
会わせられないってことはホントはいないんだろ』
「いるよっいるもん」
『俺今度江戸に遊びに行くんだけど、そん時俺なまえの彼氏に会わせろよ!』
……挑戦的になってあっさりOKしてしまった私。
なんか変だなあいつ。あんなこと言うやつだったっけ。
ところが、電話を終え冷静になってみると、「私、本当に土方さんと付き合ってるんだっけ」疑惑が自分の中で浮上してきた。
嘘を付いたわけでは決してないけど、本当じゃないかもしれない。
それもこれも全部、土方さんが曖昧なせいだ。
土方さんは、よく私と話をする。たまに会いに来る。そしてたまに食事をしたり、一緒に遊びに行ったりする。
でも、はっきり好きだとか付き合おうだとか言われたことはないし、キスとか恋人っぽいこともしていない。
この前デート(?)した時、私は
「私、土方さん好きですよ」
なんて無意識にサラリと言ってしまった。
だけど、あまりにサラリと言ったものだから、土方さんは
「ふーん」
と言っただけだった。
少なくとも、私の気持ちは伝わっているはず。
私のことを好きでも何でもないのに思わせぶりな態度を取るほど、土方さんは悪い男じゃないと思う。
でも確信がない。
土方さんは私のこと、好きなのだろうか。
だけど、今更有紀に「やっぱり会わせられない」なんて言ったら、やっぱり嘘だったんだと思われてしまう。
そんなのは悔しい。
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「なまえ、土方さんと付き合ってるんじゃないんですかィ?」
「ホント!?そう思う?そう見える?」
今は休憩中。いつものように仕事をさぼっている沖田さんに相談を持ちかけてみた。
「土方さんさぁ、そういうこと言ってた?…私と付き合ってる…みたいな」
「さぁ、どうですかねィ。本人から聞いたことはありやせんけど」
やっぱそうか…。
「どうせ俺が聞いたって、土方の野郎ごまかすんじゃねぇですかィ?意外と照れ屋だし。自分で聞いてみたらいいじゃねぇですかィ」
「そうなんだけど…違ったらショックっていうか…、私だけ勘違いとか、痛いよね」
「……なまえってどんだけネガティブなんでさァ。
っていうかそもそも、その元カレが来る日、土方仕事じゃなかったですかィ?」
「え?」
仕事が終わってから私は土方さんの部屋を訪ねた。
土方さんは着流しで、タバコをふかしている。
「次の日曜か?俺ァ仕事だぞ」
沖田さんの言った通りだった。
「そですか……」
全然考えてなかった。そもそも予定合わないんじゃん。会わせられないんじゃん。
「なんだ、どっか行きたいのか?」
「そういうわけじゃないんですけど……えーと」
「なんだよ、はっきり言えよ」
はっきり…?
『私のこと好きなんですかぁあ!?私たち付き合ってるんですかぁあぁあ』
叫びだしたい衝動に駆られる。いや、やっぱ無理。
こうなったらあれだ、最終手段だ。
私は改めて土方さんに向き直り、目を合わせる。
「土方さん、その日夜まで屯所から動かないで下さい」
「はぁ?」
「いーから!いいですね!!絶対ですよ!!」
一方的に言い放って部屋を出て行く。
「なんなんだあいつァ…」
土方さんはぽかんとしながら私を見送っていた。
一方、私は沖田さんの部屋に駆け込む。
沖田さんはヘッドフォンを耳にあて、音楽を聞きながら畳に寝転がっていた。
入ってきた私には気付いていないようだ。
私はそんな沖田さんのヘッドフォンをひっつかみ、こう言った。
「沖田さん!!お願い、私の彼氏になって!!!」
「……はい?」
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そして約束の日、駅前の喫茶店。
「なまえ、この前の約束忘れちゃいやせんよね?」
私と沖田さんは4人掛けのテーブル席に腰を下ろした。
有紀はまだ来ていない。
「……………………うん覚えてるよ?」
約束……土方抹殺計画に荷担する……だっけ。
「都守が協力してくれるなら心強い」
私は今日これから元カレ、有紀と会う。そしてその有紀に紹介する、今の彼氏役を沖田さんにお願いしたのだ。
昨日私が土方さんにああ言ったのはこのため。こんな場面に土方さんが遭遇したら大変だ。
ところで、私がこの前の電話で有紀に与えてしまった情報は3つ。
『ニコチン中毒』
『マヨラー』
『世界一かっこいい』
沖田さんなら顔はいいので3つ目は大丈夫だ。
そもそも、大ごとにしないように他の隊士には相談してないので、沖田さんに頼むしかなかった。
年下なのが少し気になるところだがしょうがない、童顔で通そう。
問題はあとの2つ。
「沖田さん、コレ」
沖田さんにある物を手渡す。
「……タバコ…とマヨネーズ…ですかィ。なまえ、未成年に何させる気でさァ」
「いい?今からあなたは土方十四郎なの。沖田さんお酒だって強いでしょ、きっとタバコもいけるよ!!」
「俺ァ、こっちの黄色い物体も心配なんですがねィ……。」
息巻く私から目をそらし、マヨネーズの方を見て沖田さんは呟く。
すると、喫茶店のドアが開く音がした。
「あっ来た!」
有紀が姿を現した。
「久しぶりだななまえ」
「ホント久しぶりだねっ有紀元気だった?」
しばらく挨拶を交わしていたが、沖田さんの存在を思い出したようだ。
「なまえの彼氏…?何か、ずいぶん若くね?」
有紀がそう言うと、沖田さんは立ち上がって言った。
「どーも、土方っす。俺ァ童顔なんだぜ」
何かしゃべり方変…。
土方さんのつもりなんだろうか………。
「篠原有紀です。年上に見えないっすね。…つかホントに彼氏いたんだななまえ」
「だからホントだって言ったじゃん」
私は得意気だ。
とりあえず私たちは昼食を取りながら話をすることにした。
「2人はいつから付き合ってんの?」
有紀が話題をふってくれる。
「えっと…1年くらい前かな…はっきりいつからって認識は
「いやぁ、なまえの奴俺にフォーリンラブすきて困っちまうんだぜ。毎日寝る前にひじ…俺の写真眺めて『おやすみ☆』とか言ってー…」
「お…土方さぁんん!!!!!!!!!」
沖田さん何言ってんのぉお!!?
ていうかなんで知ってんのおぉぉぉ!!!!!?
「あ…ラブラブ…なんだ」
明らかに有紀はひいている。
「そうなんでさァ」
注文した料理に大量のマヨネーズをかけながら意地悪そうに笑う沖田さん。
言葉…戻ってるし。
やっぱり沖田さんを連れてきたのは失敗だったかなぁ…。
『ちゃんとしてよ』の意で、沖田さんの足を有紀から見えないように軽く蹴ってみる。
すると、沖田さんは何を勘違いしたのか、
「ニコチンが、ニコチンが足りねえ!!」
と言って騒ぎだした。
「タバコ…そこにありますけど」
有紀に促され、沖田さんはタバコに火を点ける。
「…ぐふぇっごぼっ!!うっごほっ!!!」
思いっ切りむせている。ダメだもう…。
有紀の不審な目が痛い。
「ちょっと…失礼」
私は沖田さんを引っ張って店を出た。
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