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土方
二人の距離(後)
私たちは、店の外に置いてあるベンチに座った。

「ごほっ…………あー死ぬかと思いやした」


「大丈夫?もー沖田さん全然土方さん出来てないじゃんっ」


「なまえがあんな強いタバコ渡すからでさァ。…俺マヨネーズも我慢して食って…………」


沖田さんは口を押さえて俯いた。

「どうしたの?」


「うっ…………気持ち悪っ……マヨネーズ…でる…」


「えぇえ!?」


沖田さんは苦しそうに私を見ながら言った。

「………俺ァもう少しここで休んでいやすから、なまえ戻りなせぇ……」


「え、でも……」

沖田さんは心配だけど、確かに有紀を1人残して来たのはまずいかな…。

「沖田さん…じゃあちょっと行ってくるね。また戻って来るから!」




そう言ってなまえは店に入って行く。




「…よし行ったな」


なまえを見送りながら俺は呟く。
そして俺は何ともないように体を起こして携帯を取り出した。電話をかけるのは、もちろんあの野郎のところだ。


プッ


『………なんだァ総悟』

何コールかした後、いつもの不機嫌そうな声でやつが出た。


「もしもし土方さんですかィ?俺にァ土方さんは無理でさァ」

何の話だ、と奴が言い終わる前に俺は話し出す。
なまえが戻ってきたら大変だ。

「俺、今なまえの彼氏なんでさァ。………はい?何でって…、土方さんがはっきりしないからじゃねーですかィ。なまえ、付き合ってるのかよく分からなくて不安なんで土方さんに愛想尽かしちまったんですよ。」

『………』

電話の向こうから更に不機嫌な空気を感じる。

「なまえを本当に取られたくなかったら、今すぐ駅前の喫茶店にきなせェ」

それだけ言って電話を切る。電源ごとだ。





そして喫茶店の中。私と有紀は気まずい雰囲気になっていた。


「なぁなまえ、あれ…ホントに彼氏なのか?」


やっぱり怪しむよねあんなの…。

ところが私はねばった。

「…まっまだ疑ってんの!?」

「彼氏とか以前に、お前が電話で言ってた人ってあの人なのか?」


……いやかなり違うけど。

「そ…そうだよ?」

自分の目が泳いでるのが分かった。


「明らかにタバコ吸ったことねーだろあいつ!マジで未成年なんじゃねーの?………マヨネーズもわざとらしいぐらいかけてたしさ…」


土方さんは、マヨネーズあれの倍はかけるんだよ…。

そんなことは言えなかった。

言葉に詰まった私は、心配だからもう一回土方さんの様子を見に行ってくると言って立ち上がろうとした。

すると、有紀に腕を掴まれた。

「何?有紀……」

有紀の顔は真剣だ。

「俺、本当は…ずっとなまえのこと忘れられなかったんだ…」

「へ?」

動揺するのと同時に、ややこしいことになったと思った。

そういえば電話でも変だった。少し勝手なところは昔からあったが、普通なら彼氏に会わせろなんて言い出さない。


「そんなこと言われても…………」

「俺たち、やり直さないか?土方さんて…なんか変だろ…、俺にしとけよ!!」


少し、掴まれている腕が痛い。


ここまで来たら…しょうがないかな…。


「ごめん、有紀。…本当はね、嘘なの。さっきの人は土方さんじゃないんだ。…でも、私は土方さんが好きなの。はっきり付き合ってるとは言えないんだけど、…でもだから、有紀とは…」


ガラン


喫茶店のドアが開き、タバコの香りとともに誰かが入って来た。


「あ…沖田さん、だいじょ………」


てっきり沖田さんだと思って見たその人は、不機嫌な顔でこちらを見下ろしていた。


そしてよく似合う低い声で言った。

「…タバコの予備がないと思ってたら…お前か。後マヨネーズも」


さっき沖田さんが吸ったテーブルの上のタバコとマヨネーズに目を落とす。

有紀は何か気付いたようだ。

「もしかして…あんた」

驚いている有紀を土方さんは一瞥して言った。


「誰だてめェは。…手、離せよ」


とことん愛想のない男だ。有紀は私の腕を放した。


「ちょっと来いなまえ」


解放された腕を、今度は土方さんが掴んで外に連れだそうとする。
有紀より乱暴だ。


「えっ何ですか…」

何で土方さんがここに?私は混乱している。



「おい、なまえをどこにつれてくんだよ」

そんな私をよそに、有紀は声を荒げた。


「…あ?」

土方さんは足を止め、有紀を振り返る。
喧嘩でも始まるんじゃないかと思った。



ところが土方さんは意外に落ち着いた声で言った。

「………なまえが世話になったな。でもこいつァ今は俺の女だ。もう手をだすな」



何が起こったかよく分からない。何で土方さんがここに来たのか。沖田さんは大丈夫なのか。あたしはこれからどうしたらいいのか。




でも、なぜか涙が止まらなかった。




*********************

「総悟と付き合ってんのか」


最初に発せられた言葉は意外なものだった。

私は土方さんに店の裏に連れて来られた。ここなら人もいないのでゆっくり話ができる。


「…………へぇ?」

的外れな質問に、私は間抜けなリアクションをしてしまう。


「…違うのか?」

「違いますよ!!なわけないですよ!!…どうしてそうなるんですか」


元カレのことを突っ込まれるかと思っていた私は拍子抜けした。


「…ていうか聞きたいのはこっちですよ。土方さん、今日屯所から出ちゃダメって言ったでしょう…?」


涙声で訴えてみる。


「…ダメって…。総悟から電話来たんだけど。…お前取られたくなかったらここに来いって」


取られたくなかったら…?


「でも総悟の言ったことは嘘みてェだな。取られるっつうのは総悟にっていうより、お前の元カレに、か」


私と有紀のやりとりを聞いていたらしい。


土方さんはよくしゃべった。私が泣き止まないものだから焦っているのかもしれない。


「…沖田さん、なんて言ったんですか…」

「………」

土方さんは、口をひらこうとして一瞬ためらった。

「あれは、嘘じゃねぇのか…?」

「あれ?」

土方さんは少し悲しそうだった。


「…俺の態度が曖昧で、お前を不安にさせてるって話」


私は俯いた。


「………実はちょっと、本当です。だって土方さん何も言わないし、付き合ってるっぽいこととか…ないし…」



でも、あの時私のこと『俺の女』って言ってくれましたよね?

仕事中なのに来てくれたんですよね?


「………悪かったな」


「いえっ私だってもっと早く聞けば良かったんです…。それに、沖田さんに彼氏のフリしてもらって………おあいこですよ」


にこっと満面の笑みで笑ってみたが、土方さんの眉間のしわが増えていた。


「…彼氏のフリ?総悟が?」

「えっ、それは聞いてないんですか!?」


沖田さん、土方さんになんて言ったんだろう…


私は土方さんに今までのことを説明した。

するとやはり怒声が返ってきた。

「お前、そういう時は俺に言え!そういうのに総悟は信用すんな!!」

「……はい」

うん。見事に期待を裏切ってくれたよね、沖田さん。
そういえば沖田さんいないな…。


全く何考えているんだろう、土方さんをわざと挑発して連れてくるなんて。


「だいたい…気にいらねぇんだよ」

土方さんはボソッと呟いた。

「何がですか…?」


土方さんは私から目をそらし、後ろを向いた。
顔がなんとなく赤い気がする。


「…総悟と随分仲良いじゃねぇか。総悟にはタメ口なのに、俺には敬語ってのも気に入らねェ」


「だって…」


沖田さんは年下だし…、仲良くっていうかほとんど土方さんの話ですよ?

そう言おうとしたがやめた。


背を向ける土方さんに私は少しだけ意地悪してやりたくなった。


「…じゃあちゃんと言ってください」


「あ?」


「私たち、付き合ってるんでしたっけ」


私の顔も赤いかもしれない。


土方さんは溜め息をついて頭をかいた。


こちらに近づいてきたと思ったら私の視界は暗くなる。


土方さんは私を抱きしめていた。
初めて、だと思う。


そしてこう囁く。





「なまえ、お前が好きだ。」






その言葉を、ずっと待ってたの。






「……付き合ってあげてもいいよ…?」


「何で上から目線なんだよ」


髪を撫でられ、キスをされる。





私はどうやら、土方さんの彼女らしい。





沖田さん、さては全て予想済みだったんだな?

一応お礼言っとこう。
そういえば沖田さんとなんか約束したな…。


土方さんの腕の中でぼんやりと考える。


「あ」


「…なんだ」


「ふふっ……土方抹殺計画…」


「!?」



end




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