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前の君と後ろの僕 [みずちよ]



席替えをした。
多分、この一年分のクジ運を使いきった気がする。
花井と阿部とは離れちゃったけど、別にいいんだ。
――君がいるから


「じゃ、今度の調理実習のお菓子は水谷君にあげるね」
「うん! 篠岡の手作り楽しみにしてる」

休み時間になれば、篠岡と話す。
授業が終わった後のこの時間が俺は楽しみで仕方がない。
昼休みは篠岡は草刈りに行って居ないので野球部で集まる。(寝る場合もある)
今日の昼休みは阿部も花井も寝ているので、机に伏せて歌を聞いていると、肩をとんとんと叩かれた。
顔をあげればそこに居たのは篠岡で、手には二本のガリガリ君。

「水谷君もガリガリ君食べる?」

篠岡の言葉に俺はイヤホンを耳から外すと頷いた。

「いつもギリギリに帰ってくるのに今日は十分前だよ! てか俺が草刈り頑張ってくれてる篠岡に奢る側なのにごめんね」
「だって私水谷君にいつもお菓子貰ってるもん! お礼だよ。んーガリガリ君美味しい」

ガリガリ君をひとかじり。
口の中に冷たさが広がる。
ガリガリ君を食べ終え、少しすると五限の始まりのチャイムが鳴った。
ノートの端を千切り、シャーペンで篠岡宛てに一文。

『ガリガリ君ありがと。うまかった』

先生が黒板を見てる隙に篠岡の肩を軽くつつく。振り返った篠岡に微笑んで紙を渡す。
篠岡が前を向いたので、外へ顔を向けて数秒後。
篠岡の腕だけが後ろに伸びてきて紙をぽんっと置いていった。紙を開いてみると、俺の字の下には篠岡の字。

『ガリガリ君美味しいよね! 授業中に手紙って緊張するね』

それから暫く、授業中だが、ノートの切れ端で他愛もない話をしていた。
が、篠岡が今送ってきた紙に書かれている内容は、さっきまで話していた内容とは全く関係のない俺への質問。質問内容に俺の動きはピタリと止まった。

『水谷君は好きな子いる?』

(あなたなんですが……)

生憎、俺は篠岡の後ろの席で篠岡の顔は伺えない。

(軽いノリ……か? いや。篠岡はそういう子じゃないよな)

頭を左右に振り回し、シャーペンを机の上に落としたとほぼ同時に五限終了を知らせるチャイムが鳴る。
篠岡はいつもなら後ろを向いてくれるのに今は振り向かない。
立ち上がろうとした篠岡の片腕を掴むと篠岡は立ち上がるのを止めて再度席に着いた。

「あ、あのさ」
「さっきは調子乗って変なこと聞いてごめんね。忘れて!」

俺の言葉を遮るように作り笑いを浮かべて篠岡は言った。
逃げ出そうとする篠岡の腕を更に強く掴めば「水谷君、痛いよ」と篠岡が呟く。
一度深呼吸して篠岡の腕を解放する。

「俺ね、好きな人いるよ。本気なんだ」
「そ、そっか」
「篠岡なんだけど」
「そ、そっか……え?」

目の前の篠岡の顔は真っ赤で、思わず吹き出してしまった。
篠岡は辺りを見回すと、返事をしていない紙切れに自分のペンで文字を書いている。
渡された紙には、

『私も水谷君好きだよ』

なんて書かれている。
嗚呼、可愛いな。
真っ赤な顔を隠すように俯いてる彼女にいつものように微笑んで言う。

「今日、一緒に帰ろっか」




前の君と後ろの僕


(帰り、水谷君疲れてない?)
(ぜんっぜん! しのーかのオニギリで元気になるし!)




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ヘタレ君も時には頑張る。
調理実習の篠岡が作ったお菓子。
水谷君にあげるつもりが、
廊下で先に会った田島君に
奪われていればいいです←

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