さよならを君に [水→(←)篠岡→泉]*
篠岡に告白された時、俺の脳裏にすぐさま浮かんだのは泉だった。
好きな子に好きと言われて嬉しい反面、親友を傷つけてしまう覚悟が無かった。
それに最近、篠岡と泉はよく一緒にいて話していたから、俺はてっきり篠岡は泉が好きなのかと思っていたんだ。
まさかの展開に俺が返答に困っていると、
「泉君が、水谷君に告白するよう背中を押してくれたの」
(――え?)
頬を赤らめた篠岡はそう言って微笑む。
(……なんだよ、泉)
(……バカじゃないの)
泉の事を考えて自然と目頭が熱くなり、涙が溢れだした。篠岡が心配そうに下から見上げていて、俺の頬に手を添えた。
「水谷くん?」
「すっごく嬉しい。俺も篠岡が好きだよ。これからよろしくね」
その言葉に感極まってか泣き出した篠岡を俺は抱き締めた。
(こんなのすげぇ辛いじゃん)
"泉の分まで俺が幸せにする"
そう心に誓って、抱き締めた彼女を絶対に離さないと決めたのに――。
*
俺と篠岡が付き合いだして二ヶ月くらいすると、泉の篠岡への態度が急変した。
きっとそれは泉なりの篠岡からの離れ方だったんだ。
それを篠岡は気付かない。当たり前だ。
まさか、相談相手が自分を好きだなんて思わないだろう。口にしない限りは。
「私、泉君に嫌われるような事しちゃったのかな」
「違うよ」
「だって、用があるときだけって距離おきたいってことでしょう?」
頭に手を添えながら苦笑する篠岡に俺は「違うよ」しか言えなかった。
『篠岡には俺の気持ちは言わないでほしい。……ちゃんと消していくから、あいつへの想いを』
付き合った時、俺が泉の元にいけばそう言われた。だから俺は泉の気持ちを告げない。
――でも、思うんだ。
これは、逆効果じゃないかって。この行動によって、俺は気づいてしまったんだ。
篠岡は泉ばかりを気にしている。
篠岡から元気が消えた理由も、篠岡が俺といても作り笑いばかりな理由も全部、全部、泉が原因なんだ。
「篠岡は俺のどこが好きなの?」
俺の質問に篠岡の肩がビクリとした。
きっと篠岡が答えられないのをわかっていて、こんな質問をしてしまう自分も相当な馬鹿だと思い、小さな溜息を吐いた。
「優しい所だよ」
「どう優しい所? 他には?」
「私の事をよく見てくれてて、さりげなく私を気遣ってくれて、時には助けて」
「泉だって同じだよ」
俺の言葉に篠岡の動きが止まった。
篠岡との付き合いは、泉があんな行動をとるまでは良かったんだ。
大好きだった人と楽しい時間を過ごせた。
――もう、俺はそれだけで十分だよ。
俺が笑って見せれば、篠岡は今にも泣きだしそうな顔になった。
「篠岡は勝手だよ。俺が好きとか言って、篠岡の心にいるのは泉」
「ちが、私が好きなのは――」
「俺って言うつもり? 違うよ。篠岡は泉しか見てなかったんだ」
喉元をおさえて辛そうな表情をしている篠岡に近付いて、柔らかい少し伸びた髪の毛に手を添える。
「始まりは俺だったかもしれない。その時の気持ちだけ受け取っておくね」
「だから早く行きな、泉の元に。二ヶ月、篠岡と一緒に過ごせて良かった。ありがとう」
「ほら、俺は女の子と仲良くなって出会いはあっても泉はあんまり女子と関わらないからさ。……大丈夫、俺は泉と違って篠岡から離れたりしないから」
"ごめんなさい、ありがとう"
そう告げて、篠岡は教室を駆け出した。
笑顔を作って手を振り、彼女の姿が見えなくなると無気力に手をおろした。
「はは……、キスくらい奪っておけば良かった」
離さないと誓ったのに、手離してしまった。
いや、いいんだこれで。これが正解なんだ。
「うぅ……っ……ああ」
この日は久しぶりに泣いた。
こんなに、呼吸が苦しくなるくらいに。
大好きだったよ、君の事が。
――さよなら、篠岡
さよならを君に
(大好きな人たちが幸せに)
(なるならそれでいい)
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水谷くん視点長くなりました。
まだ続きまふf(^_^;)
次は、水谷と泉の話。
気が向いたら千代ちゃん視点を
書きたいと思います。
2012.3.25
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