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サヨナラを君に [泉→篠岡]*



サヨナラなんて、嘘だった。
言いたくなんか無かった。

「もう、俺に相談しないで。野球に集中したいからさ。用があるときだけ話しかけてよ」

「俺とばかり居たら何か水谷に悪いし。そういうの恋人同士で悩みなよ」

「だから……サヨナラ、篠岡」


*


俺と水谷は、篠岡が好きだった。
そんなの、お互い確認をした訳ではない。
何も言わなくても気づいてしまったんだ。

「いずみぃ、投げる球が強すぎて俺、手がいたいよぉ」
「水谷、そんなんだからお前は阿部にクソレって言われんだよ」
「泉までひどい!」

"篠岡が好き"という事実を俺たちは口にしない。いや、出来ないんだ。
関係が少しでもこじれるのが嫌だった。
怖いんだ、お互いを傷つけることが。

だから、お互いに知らない振りを続けようとしたのに。


*


「ごめんね泉君、いつも相談にのってもらっちゃって」
「全然大丈夫。で、今日は何?」
「あのね、水谷君に――」

悲しいことに篠岡の気持ちは、水谷に向いていた。
気付いた時には俺は既に相談役。
篠岡を見ていたら、誰を見ているかなんて直ぐに気付いてしまった。
あの時、俺は冗談混じりに聞いたんだ。

『篠岡、水谷好きなの?』

そうしたら篠岡、顔を真っ赤にして小さく頷いたんだ。

――聞かなきゃ良かった。

そんな後悔が体中を巡って、口からでた言葉は「相談に乗るよ」という心を偽った言葉。


*


もう何度、水谷の事を考えて水谷のために行動しようとしている篠岡と向き合ったのだろう。
話を聞くたびに、後悔と悔しさが募る。

――ああ、辛い。辛すぎる。

逃げたしたかったのかもしれない。
だって、辛すぎるだろう?
目の前に好きな女がいるのに俺が触れる事は許されない。
好きな女が顔を赤くして、他の男を想い、そいつの話をしてくるなんて。
だから、言ったんだ。この関係をはやく終わらせたいから。


「告白、しなよ」


頬杖をついて、誰もいない教室で俺はそう口を開いた。
目の前で、きょとんとした篠岡に俺は作り笑いを浮かべて、篠岡の背中を押してやる。

「篠岡なら大丈夫。絶対に大丈夫だから」

最初は戸惑っていた篠岡も段々とその気になり、走ってあいつの元へとかけていった。
走り出した篠岡の後ろ姿を見つめ、俺は小さな溜息を吐いて天井を仰ぐ。

(これで、良かったんだ。あとは俺が篠岡から離れるだけだ)


*


そして冒頭に戻る。
目の前には、驚いたような困惑した表情の篠岡。目元には涙が溜まっている。

「泣くなよ。篠岡には水谷がいんだから、大切にしろよ」

何も言わない篠岡に最後に笑顔を見せて俺はその場を後にする。
不意に服の裾を掴まれ、俺の足は止まった。

「待って、泉くん」

俺は伏せ目がちに篠岡を一度見やり、ゆっくりとその手を服から離すと、そのまま前へ歩き出した。

――振り向かない。絶対に。

こうまでしないと俺は、篠岡から離れられない。
それほどまでに好きだったんだ。

「……っ」

泣きたくないのに、涙が頬を伝う。
さよならなんて、嘘だった。
言いたくなんか無かった。
だけど、俺はお前に"失恋"してまでお前の傍にいるほど、都合のいい男じゃない。

だから、サヨナラだ……篠岡。




サヨナラを君に


(これでいいのか)
(それは俺にも分からない)




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背景、行動描写は少ない、
心理描写多めの小説。
今回は泉くん視点。
まだ続きます。

2012.2.24

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