一番打者のヒット [田栄泉→篠] 自信があった。 部内であいつを好きなのは俺だけだって。 だから確信が得たくて、 「なぁ、お前ら好きな奴いんの?」 俺の言葉に練習を終え、部室にて着替えている野球部部員はみな動きをとめた。 「や、いないけど」 巣山の言葉に続くように「同じく〜」と沖、西広が言った。 「泉がそんなこと聞くなんて! 俺はね、女の子みんなが」 「黙れ、クソレ」 「阿部ひどい!」 「でも突然どうしたんだ?」 Yシャツのボタンを手に掛けながら花井は俺に問いかけてきた。 「や、別になんとなくだけど」 「まぁ俺は野球にしか興味ないし。でも我が野球部部長は」 そこまで言いかけて阿部は怪しげに笑いながら花井を見ている。 まぁ、花井は分かりやすいよな。 「は、ないくん、がん、ばれっ!」 あぁ、三橋にまで応援されてる。 「う、うるせぇな! 別に俺、す、好きな人なんかいねぇよ!」 顔を赤くして言ったところで、説得力ないって。 ――それにしても、 意外に食いついてきそうな奴等がまだ一言も口を開かない。一人は黙々と着替えていて、一人はTシャツの状態でその場に立ち尽くしている。 「田島、お前が話しに入ってこないなんて何かあったか? それに栄口も、突っ立ててどうした?」 (ナイス、花井!) 「あ! それ俺も思った! 何かあったならこの文貴に相談してよね」 「お、おれに、もっ!」 花井、水谷、三橋の言葉に栄口は「ありがと、考え事してた」と笑って答えた。 田島もロッカーの扉を閉め、体をこちらへと向けるとニカッと笑って言った。 「俺も!」 「そういえばさ、二人は好きな子いるの?」 水谷が首を傾げて田島と栄口に問いかけた。 栄口の顔がみるみるうちに赤くなっていく。 「いるんだ」 俺がニヤニヤ(内心、あいつじゃないことを願いながら)とした顔で言うと、小さな声で何か呟いている。 阿部は栄口から目線を黙っていた田島へと向けると、 「田島は?」 「え? 俺はいるよ」 (は? 嘘だろ) 多分、俺だけじゃない。 この場にいた田島以外の奴は皆俺と同じ事を思っただろう。 「いんのかよ」 阿部が呟いた。 「どんな子なの!?」 水谷、何で田島になるとそんな興味深々なんだよ。確かに気になるけど。でも、田島がライバルって考えただけで恐ろしい! (あぁ、あいつじゃありませんように) 「すっげ、可愛いよ。それに頑張り屋だし、笑った顔見ると何ていうか、心が落ち着く」 「笑った顔が落ち着くって、俺にとったら、しのーかだな」 水谷が頬に手をあててふにゃりと笑って言った。 後で一発殴ろうかな。 「あ、わか、るっ!」 「それに篠岡頑張り屋だよな。マネジの仕事頑張ってるし……まさかだよな?」 花井が呟きながら田島の方へと顔の向きを変える。 隣を見れば栄口の顔が更に赤くなってる。 「なぁ、何で栄口が顔赤くなってんの?」 俺が聞くと、 「え、や、別に何でもないよ!」 「あぁ、そういうこと?」 「阿部! ニヤニヤした顔で言ってくるな! それに何で最後疑問系なんだよ」 (あぁ、そういうこと) 気づきたくなくても鋭い俺は気づいちゃったわけで、 「ねぇ、田島の好きな人ってさ」 水谷がそこまで言いかけて、田島はんー?と言葉を返した。 「髪の毛が茶色でふわふわしてて俺達の為に頑張ってくれてる子?」 「うん、そう! し」 「俺さ」 気がつけば田島の言葉を遮っていた。 田島の口から、もちろん栄口の口からも、あいつの名前を聞きたくなかったんだと思う。 でも俺、続きの台詞なんて考えてないし。 あ、皆が俺見てる。どうしよう。 ……そうだ。一番打者は先に塁に出なきゃいけないんだ。 なら、今だって先に出ればいいんだ。 「俺さ、篠岡のこと好きなんだよね」 一番打者のヒット (え? ゲンミツに?) (篠岡好きなの俺だけだと思ってたのに……) (俺だって) ((((てか、田島と栄口と泉……まぢで!?)))) ----------------------* 初小説で泉君視点。 みんな千代ちゃん大好き´`* . [次へ#] [戻る] |