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小説(短編)
★興味×恋情∴真実?(まずはこちらからどうぞ)
はじめは・・・そう、初めはただの好奇心。
捕らわれたのは何時だったか・・・。

興味×恋情∴真実?

「うるさい、この常春がぁ」
彩雲国・宮城。外朝のはずれにある、府庫にその怒声は響き渡った。
「そうは言うけどねぇ」
「うるさいわっ俺は絶対に御免だっ」
怒鳴っているのは、李絳攸。史上最年で国試に状元及第した強者(つわもの)だ。綺麗な顔で恐ろしい毒を吐く自称・鉄壁の理性。
怒鳴られているのは、藍楸瑛。こちらも国試にて榜眼及第したもの。更にこの国で上位にある彩七家の中でも一、二を争う藍家の四男で、見るもの皆振り返る美少年。
彼らは何の仇だっと問いたくなるような膨大な書簡に囲まれた府庫で日々職務に勤しんでいた。
はっきり言って忙しい。無駄話している暇も大声を上げている暇もない。
しかし、絳攸は叫ばずにはいられなかった。
今、目の前のこの青年はなんと言った?
「でもねぇ・・・分かるだろう、絳攸」
「い・や・だ」
誰が、どうして、何の為にっ
「なんで、俺が女のわんさかいるような宴会に出席せにゃならんのだっ」
「君の女嫌いも、相変わらずだねぇ」
李絳攸の有名な噂は、女嫌い。「なら、その顔代えてくれ」との叫びが殺到するほどの整った顔をしている。しかし、とある宴会で、散々に女に迫られたせいですっかり毛嫌いしている。本人曰く「女は狐狸妖怪より厄介な生き物」らしい。
対する、藍楸瑛の噂は、女好き。その眼差しだけで一流の妓女も落とすと言われている。
まさに、正反対の二人だが、何かと一括りにされることが多かった。
まあ、それはともかく。
絳攸の女嫌いは尋常ではなく、酒の席にかこつけて縁談を申し込まれる宴会も大嫌いだった。
楸瑛とてそれは知っている。しかし・・・
「今回ばかりは、無理だよ。断ったらどうなるか。大丈夫、いざとなったら助けるから」
楸瑛の言葉に絳攸は詰まる。確かに、ただでさえ自分たちを目の敵にしている高官の誘いを断るわけにはいかない・・。
絳攸は、承諾するしかなかった。






「まあ、絳攸様」
媚びた声音で自分に擦り寄ってくる女に、絳攸は吐き気を覚えた。
隣では、自分と同じような状態で(自分とは違いまったくの余裕だが)楸瑛が酒を飲んでいる。
「まぁ・・・」
「すてきぃ」
にこやかに笑う楸瑛の笑顔を見て、絳攸は内心冷や汗をかいた。

怒っている。確実に。

原因は恐らく、先程の女の台詞。楸瑛に弟がいるという話になった時。洩らした一言。
『ああ、変人と名高い。楸瑛様とは比べられぬとうちの従兄が申しておりましたわ』
その瞬間、楸瑛の雰囲気が変わった。
『従兄?』
さも、女に興味があるといわんばかりに尋ねたその瞳は冷ややかに凍り付いていた。
元々、馴れ馴れしく名前を呼んでくる女に辟易していたのは分かっていた。その上のあの発言。
大体、自分の身内を非難されて喜ぶものなどいないだろうに。
まして、相手は楸瑛だ。彼は、本当に優しいから。
(ああ、帰りたい・・・)
唯一の救いは、ここに来る事を黎深に言ってきた事だ。
あの養い親には珍しく眉を顰め、「暫くしたら迎えに行く」と言ってくれた。
あと、少しで帰れる。
「絳攸様・・・ねぇ、あちらに行きませんこと?」
不意に自分に縋り付いていた女が声を上げた。
嫌な予感に絳攸の全身に鳥肌が立つ。
冗談ではない。
「絳攸様・・・」
しかし、熱っぽく自分を見上げてくる女のかわし方が絳攸には分からない。
と・・・。
「絳攸」
柔らかい声が耳朶(じだ)を打った。
「あまり、飲んでないね?それとも、美しい花に酔ってしまったのかな?」
そういいながらも、女達を避けて、隣に座る。
助けられた事に安堵して、それ以上に耳に残る楸瑛の声が心地よかった。
隣に座る楸瑛は綺麗で・・・浮かんだ不埒な考えを絳攸は必死に抑えた。
「これはこれは、楽しんでおられますかな?」
響いた声に絳攸と楸瑛は同時に息をついた。
「ええ」
にこやかに応じたのは楸瑛。
社交的な事を相棒に任せて、絳攸は内心毒づく。
(何が、楽しんでおられますか・・・だ。俺が女嫌いだと知っていてこんな席を用意した癖に。大方、楸瑛の弟を悪く言わせたのもこいつだな)
藍本家には直接手が出せないから、間接的に楸瑛や弟を貶めたいらしい。
馬鹿すぎる。
自分にしたってそう。
紅黎深の養い子である自分をどうにかして、直接は勝てない黎深に対する嫌がらせて変えようとは・・・。
(この、脂ぎった艶と何時でも冬眠出来そうな肥満体型だけがとりえの小物が)
無表情でこけ下ろす絳攸に気付いているのだろう。楸瑛は微かな笑みを浮かべている。
男は絳攸の内心に気付かず、滑稽な笑みを張り付かせたまま、絳攸に視線を向ける。
「ささ、どうぞ一献」
差し出された杯(さかずき)に、なにやら嫌な予感がした。
「私は・・・」
「彼はどうやら、ここの美しい花に酔ってしまったようです。その杯は私が受けましょう」
断ろうとした絳攸を遮って楸瑛が言葉を紡ぐ。
(おいっ)
(何が入っているか、分からないからねぇ。私は大丈夫。多少の毒物は平気だから)
小声で止めると何食わぬ顔で楸瑛が返してきた。
そういう問題ではないだろうと、絳攸が言うより先に杯を干す。
「ありがとうございます」
言って、笑みを浮かべる楸瑛にほっとする。
そろそろ、黎深様が迎えに来てくださる。
「私達はそろそろ・・・」
絳攸の内心を正確に把握して、楸瑛が男に告げた。
「ええ、長く引き止めてしまいましたね。・・・・・ああ、楸瑛殿。少しお話が…よろしいですか」
否、とは言えない巧妙な罠。
「ええ、勿論」
「絳攸殿は、少しお待ちください」
「行ってくるね」
絳攸が抗議する前に、男は楸瑛を連れて室に入って行った。





嫌な予感がする。
外で楸瑛を待っていた絳攸は、徐々に強くなる予感に唇を噛んだ。
何故か、自分はこういう勘が鋭い。
しかし、今絳攸が室に入っても邪魔なだけだ。
どうすべきか・・・・・。
「何をしている、絳攸」
「黎深様っ」
思案していた絳攸は求めていた人物に瞳を輝かせた。
「どうした。藍家の若造は?」
「それが・・・あの男が話がある、と」
「・・・・・・・・・・・・お前、随分と冷えているが、何時からここにいた」
「あ」
黎深の言葉にはっとする。
いくらなんでも、遅すぎる。
客人が帰るのを引き止めたのだ。普通は数分で終える筈。
嫌な予感がした。
「っ楸瑛」
「待て、絳攸」
そのまま、走り出しそうな養い子を黎新は引き止める。
「あの男がそう簡単に捕まるものか。何か変わったことは?」
「ぇ・・・・あ」
考えを巡らした絳攸は、一つの可能性に気付いた。
絳攸に飲ませようとした、あの杯。
「杯・・・」
「杯?」
「あの男が、俺に飲ませようとしたんです。でも、楸瑛が」
自分に飲ませようとした、杯。
男の下卑た笑い。
戻ってこない楸瑛。
「もしかしたら・・・」
「・・・飲んだ後の状態は?」
「普通でした。でも、」
あの、ねっとりと絡みつく視線・・・。
「あの男に・・・藍家を敵に回す度胸は、ない」
だから、こそ、絳攸に・・・。
呟くと同時に、黎深が動いた。







「なんのお話でしょうか?」
言葉だけは丁寧に、楸瑛は切り出した。
この男に、藍家を敵に回す度胸などないだろう。
「いやいや、本当は、絳攸殿をと思っていたのですが」
「?どういう・・・・・っ」
ぐらりと、視界が揺らぐ。
「あなたから、あの杯を干してくれるとは思いませんでしたよ」
気付いた時には、楸瑛は男に組み敷かれていた。
「放してくださいっなんのつもりですっ」
「何を異な事を。分かっているのでしょう?」
言いながら、男の手が楸瑛の内股を撫ぜた。
「っっ」
「ふふふ、私はついている。絳攸殿よりあなたの方が好みですからなぁ」
「ふざけるなっ」
「ふざけてなどいませんよ。ほら、動けないでしょう?
先程の杯にはたっぷりと媚薬を入れておきましたから」
「変・・・態がっ」
「ふふふ、あなた方が悪いのですよ。若く、有能で・・・それは喜ばしい事ですが、しかし目障りだ」
「っう」
男の舌が楸瑛の首筋を這う。
ねっとりとした感覚に全身が総毛だった。
「こんなことをして・・・なんになるっ」
「ふふふ、こんな行為あなたにとっては恥辱以外の何者でもないでしょう?
私に従っていただきます」
「このようなことで、この私を従えるだと?」
「ええ、可能でしょう。あなたの大切な方々にこんな事を知られるぐらいなら、あなたは私の言うことを聞くはずだ」
手が、薬のせいで感度を増した、下肢に触れる。
「あなたの矜持は何より高い。ふふ、こんなにも美しい体を手に入れられるとは」
こんな事、許したくない。誰かに知られるなど耐え難い。
しかし、体が動かなくて。でも、無様に叫ぶのだけは御免だった。
大切な人の顔が浮かぶ。そっと、楸瑛は舌に歯を当てた。
その時。
「調子に乗るな。下種が」
冷たい声が響いた。
「ぁ・・・・・・・・・・・・・」
目の前、自分を押し倒す男を冷ややかに見つめる彼に、楸瑛は息を吐いた。
「なっ紅、黎深っ貴様誰の許しを得てここに入ってきた」
「ふん、ならお前は誰の許しを得てそいつに触れている?」
冷たい視線を向けながら、黎深は取り乱している男を蹴り飛ばした。
「よりによって、藍楸瑛に手を出すとは・・・余程死にたいらしい」
「なにっこ、これは合意だっ」
「合意?ほう。では、今こいつが舌を噛み切りそうになったのはお前の趣味か?」
黎深の声に後を追ってきた絳攸は息を呑んだ。
舌を噛み切るだなんて・・・。
だが、楸瑛なら確実にやるだろう。
自らの死を以て男に分からせる筈だ。
自分が『誰に』手を出したかを。
「そ、そんなことは・・・だ、だいたい貴様が何故ここにいるっ不法侵にゅ」
男の言葉は最後まで続かなかった。
黎深がいつの間にか持っていた剣で男の脇―――顔すれすれの場所を突き刺していたから。
「嫌がる相手に薬を盛って手篭めにしようとする輩が何を言う。覚悟するんだな」
そうして、黎深は男を耳元で囁く。
「紅藍両家を敵に回して、生きていけると思うな?」
そのまま、失神した男を一瞥して、黎深は息を乱している青年を見やる。
「あ・・・・・」
矜持の高い瞳が苛烈な色を持って、男を見下ろして・・・それから、黎深を見る。
「ありがとう・・・ございました」
誰かに助けて貰う等、彼にとっては屈辱でしかない。
しかし、それでも礼を言うのは、己の限界を知っているからだ。
「楸瑛・・・」
「絳攸。大丈夫だよ」
絳攸を安心させるように軽く微笑む顔。
いつもと変わらないように見えた。
少なくとも、絳攸には。
しかし・・・。
「藍楸瑛」
「え?わっ」
いきなり、黎深が楸瑛を抱き上げた。
「なにを・・・」
「莫迦が」
その一言に、楸瑛は意識を失った。





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