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小説(短編)
紅に染まりしは…(絳楸)
紅に染まりしは…

ザンッ
目の前で白刃が翻り、鮮血が散る。
そこに立つ美丈夫に絳攸は息を呑んだ。
「しゅう…えい」
絳攸の言葉に、冷たく鋭利な表情をしていた楸瑛がざっと青ざめた。
「こ、ゆう…」
震える声を押し殺して、楸瑛は微笑んだ。
「怪我…ない?まだ、あぶないから…下がっていたほうが、いい」
無理をしていると分かる声に、絳攸は楸瑛を見つめた。
「どうし」
「いいから、行って」
しかし、疑問は打ち消され、楸瑛の声を聞きつけた武官たちによってその場から引き離された。



「では、自分はもう戻りますので」
「ああ。私も、もう一度見回ったら戻るよ」
部下の言葉に頷いて、楸瑛は息を吐き出した。
突如現れた賊を退治するために羽林軍が派遣された。
街でようやく彼らを見つけて追い詰めたら…。
「最悪…だね」
見られた。
一番見られたくない人に。
一番見られたくない姿を。
自分は武官であることに誇りを持っているし、大切な人を守るために剣を持った。
けれど…。
あんな風に、冷徹な顔なんて…。
血に染まる姿なんて…。
見られたくなかった。
この手が、血の紅に染まっているなんて…気付かれたくなかった。
なのに…。
ぐっと楸瑛は唇を噛み締めた。苦い鉄さびの味がする。
「楸瑛」
不意に、声が聞こえた。
「何やってんだお前っ」
「え?」
突然の怒鳴り声に楸瑛は呆けたように相手を見た。
そこには怒りに頬を染めた恋人がいて…。
「そんなとこで、ああ、唇切れてるじゃないかっ」
そう言って、柔らかく唇に触れて、優しく舌で舐め上げられた。
「んっ…な、んで…」
ここにという疑問は、絳攸の唇で塞がれる。
「ん…ふっ…あっ」
「楸瑛…」
ゆっくりと口付けをといて、絳攸が呟く。
「こぅ…ゆっどうして」
「何がだ」
「だって…きみ、みた、だろう」
私の手が、紅に染まるのを。
「バカかお前は」
辛そうに告げた楸瑛の様子に、絳攸は思わず叫んでいた。
「な…」
面食らった楸瑛に続ける。
「お前は、誰を助けたんだ?お前、俺を助けたんだろうが。これからもお前の手が血に染まるのは誰かのためだろう」
いちいちそんなこと気にするかと絳攸はあっさりと告げる。
「でも…」
「でもじゃないっ」
「こうゆ…」
「お前の手は、汚れてなんかない。自分のために誰かを傷付けるような奴と一緒にするな」
「あ…」
「俺は、そういうお前が好きだから」
「…ぅん」
珍しい恋人からの告白と、誰かに言って欲しかった言葉に、楸瑛は頷いた。

う〜んすみません。楸瑛を弱くしてみたかったんですっ
191112
真 拝


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あきゅろす。
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