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春を彷徨う、桜色の双子


「知ってる?」

「何を?」

「さくら染めには何を使うか。」



唐突に話を振ってきた、ルイ。桜満開の庭の一角にシートを敷いて、山程あるお菓子を並べて花見をしている今、何故そんな話になるのかが分からない。。



「突然なに。」

「や、だからしってる?」

「生きていくのにさほど関係ないと思ってるので、存じかねますね。」

「……むかつくね、その言い方。」

「僕の話し方に文句をつけないでもらえるかい?」

「ごめんなさいーレキにいさまー」

「怒るよ?」



慌てた様子で平謝りする彼女。しみじみ面白い妹だと思う。生まれてからずっと2人でいるけれど、ルイほど愉しい仔に逢ったことはない。(僕の半身だから当たり前か)



「あたまが良いレキでも、知らないことあるんだね?」

「まだ15年も生きてないからね。」

「ふーん…そっか!!」



満面の笑みで笑う。少し知恵の足りない分感情豊かな彼女に、感情が欠けた分知恵が多い僕。二人で一つという言葉は僕らの為に有る。



「ルイは、知ってるの?」

「うん、昨日おばあさまに聞いた!!この桜色のワンピースをもらった時に。」



立ち上がってクルクルと回る。僕のシャツと同じ様に薄い桜色に染められたガーゼで出来たワンピースが、そよそよと風に揺れていた。どちらも昨日大好きなお婆様に頂いた、服。



「僕もいたよね?」

「レキがたまたま居ないときだった…。ほら、あれ…でんわ出た時だね。」

「ああ、あの時。」



いつものとおりの両親からの電話。2週間に1度、僕へ電話を掛けてくる。5年前の春、今日みたいな桜満開の日、お婆様の家に預けられた時から変わらない習慣。(僕ら親子を繋ぎ止めている、唯一のね)



「レキー?」



名を呼ばれ、思考を止める。今は両親のことなんてどうでもいいし。



「ごめん。で…何だっけ。」

「さくらぞめ!!」

「そうそう。何を使うの?」

「ちゃんと聞いててよー…。」



唇を尖らせて抗議する、ルイ。そこらへんの女がしても気分悪いだけなのに、彼女なら可愛い行為。僕の半身だから、許される。

そしてにっこり笑って、言ノ葉を紡ぐ。



「なんかね、冬の桜の樹の幹の皮なんだって!!桜の樹が、春に花をピンク色にする力を冬の間に幹にためるらしいの。ソレをきれーにはがして煮た汁で、布や糸を染めるんだって!!」

「ふーん…皮、ね。」

「すごくない?さくら色なのに茶色い幹から出来るんだよ?花からだと思ってた!!」



確かに、驚きだ。でもきっと科学的に考えれば普通のことなのだろう…と情緒のないことを考えてみた。(あの色の薄い花びらで色素を出す方が難しい)



「って事は…花がさくら色になる力を着てるんだねー。可哀想かな…?」

「そんなこと無いと思うよ。僕らが花の代わりにこの薄いピンクを纏っているんだから。」

「んー……。なら、桜の子供を着てるってことか!!凄いね!!!」



どこから考えればこんな考えに繋がるのだろうか。僕では決して出来ない、ルイなりのもの。それは奇跡のような思考回路で、現実的な僕にとって時に酷く羨ましい。





シートへ寝転がり、桜の下から空を見上げる。ピンク色の隙間から見える蒼い空。サラサラと吹く風に全てが溺れそうになる。それを繋ぎ止めたのは、意味無く繋がれた手だった。


踊っていたはずのルイは、僕の隣でニコニコ笑っていて、クッキーをかじりながら話しだす。


「春の妖精が踊る時も、桜染めのドレスを着てるのかなぁ?」

「……そうかも知れないね。」






沈黙が流れて、視界が揺れた。ごくごく現実主義の僕が、妖精なんていう単語を認めるなんて、普段であれば絶対にない。ほんの数秒前に口から出た言葉はきっと春の空気に沈酔したのだと、心の中で決めつける。



普段は注意する、彼女の物を食べながら話す悪い癖も気にしない。今は、なにも難しいことを考えていたくない。

握られたままの手が暖かく、まどろみを呼んだ。






「…僕、眠いんだけど。」

「ちょっとねよっか。夕方まで時間はいっぱいあるし!!」

「お休み、ルイ。」

「おやすみなさい、レキ。」





夢の中で会えた君。その華奢な背には、蜉蝣のような妖精の羽がある。僕の背中にも同じように生えていていた。そして春の暖かい昼下がりに、冬の間に誂えた桜染の服を着て、桜の花を中を飛ぶ。手を繋いで、心から笑いながら。

双子
(泡沫の永遠の中を手を繋いで、彷徨った)



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