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(それでよく、家事全般とか言えんよな)
普段なら突っ込むところだが――
口には出さずにユーリはつぶやいた。
声に出してしまえば彼女のノリにつられて、せっかく誤魔化している口端が上がってしまう確信があったからだ。
エーリルは高揚している気分は残ってるものの、女優タイムはさっきので終わった様子。いつもの機嫌が良い形で喋りかけてくる。
「イライラは溜めちゃ駄目だよ?ただでさえ短気で我がままなんだから」
カチンっ、と軽い衝撃。
さようなら、繕った自分。
「うっせぇっ!一言多いっ」
「だぁってホントの事だも〜ん」
ユーリのお決まりな文句も今のエーリルにとって、跳ねるような愉しさを増長させるものでしかない。
エーリルは後ろ手で腕を組んで肩を上げて、悪戯っ子の如く愉しげにユーリから離れた。
一歩、二歩。振り子のように膝を伸ばし、三歩目でユーリに振り返る。当然、肩当て等の装具が振動で鳴った。
「次の休みは憂さ晴らし決定だね!すっきりしないと」
暫し沈黙。
「…な〜らどっかにチンピラでもいないか捜してみっか」
「それは止めとけ」
冷静にとんでもない事を言い出すユーリに、ピシャリとエーリルが言い放った。
「なんで?憂さ晴らしに丁度良いじゃねぇか」
「いやいやいやいや良くない良くない全然良くないから」
反対された事がさも意外だと。不満顔のユーリにぶんぶんと手を振ってエーリルは抗議する。どうもユーリには伝わってなさそうだが。
と、その時、視界の端に見知った人影が映った。
「あ、隊長」
「隊長?」
エーリルに倣ってユーリが振り向けば、彼女の言葉通り、ナイレンが屋敷の裏手に居た。どこをどうでも無くキセルを吸いながら、ただ歩いている。
「隊長とお話しするんならいつが一番良いんだろ」
「へっ?」
エーリルの口から想像外の言葉が出てきたため、ユーリの喉からはえらく素っ頓狂な声が出てきた。
「近い内にまたお話ししたいなぁと思って」
そう口にすると、彼女は口元をほころばして落ち着きなく揺れだす。
例えて言うなら
『飼い主を見つけ
しっぽを振る犬』
「きっとユーリも隊長の事好きになるよ」
「なんかあんのかよ。あのおっさんに」
「信頼できる大人かもしれない」
「へぇ」
エーリルは素直な感想を述べたがユーリにはさほど興味も持たなかったようで、くるりと背を向けた。
「ところでよ」
「うん、どしたん?」
「俺とエーリル」
「ん?」
「訓練しなくていいのか?」
「はっ」
遠く――およそフレンが居る辺りから、指導係の妹の激昂がエーリルとユーリの耳に入ってきたのは、気のせいではなかった。
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