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エーリルにとってガリスタ・ルオドーの第一印象は、良くも悪くもないものだった。
それなのに、いけ好かないとは感じた事は確かだ。
(なんだか表面だけのツラに見えんだよなぁ。繕ってるっていうか。まぁ、どうでもいいんだけど)
冷たい壁に身を預けて、エーリルは独りごちた。
14 -守る者として-
ガリスタが真横の扉に消えて十数分、今もまだ扉は微動だにせず、沈黙をまもっていた。
その扉をチラリと見遣りそのまま視線をあげると、部屋を称したプレートがひとつ、掲げられている。執務室とだけ書かれたそれは、年期が入り、部屋の主の様に威厳に放っているかに感じた。
待たされているのは廊下だった。誰ひとりとして居ない廊下。
窓が通路一面に誂えてあるおかげで、明るさが保たれている。これだけ窓が設置されていれば、夜は月明かりだけで十分と言えそうな作りの結果、所々に壁から突き出ている魔導器が本来の役目を忘れさせ、ただの装飾に見えても仕方がない。
その窓からは見慣れた練兵場と、紅葉に色付いてきた山々が、在るがままにその風情を照らし出していた。風に揺れる葉。広い青空。
無感情それに見入っていると、扉が開いた。
「待たせました。隊長がお待ちになってみえますよ」
「有難うございます」
軽い会釈も添えて言うと、軍師は礼儀正しく返してきた。
「いえ、こちらこそ」
それだけ口にして廊下の角に消えた。
その姿を見届けて、エーリルは執務室の扉を開いた。
「失礼します」
開けて、エーリルの瞳に最初に飛び込んできたのはまた、窓だった。ガラスの外に植わった木々隙間をぬって届く陽が、緑のカーテンと室内を淡く照らしている。
次に自分の隊を指揮する隊長。壁際の中央で壁を背にして置かれた机に向かい、事務仕事をしている様に見えるのに、その身は防具に包まれている。
「どうした?」
ナイレンに声をかけられた途端、気持ちが小躍った。
「隊長」
声を弾ませてナイレンの斜め横に移動すると、最後のひとつになった手提げ袋を差し出す。
「お疲れさまですっ。これ、こないだのお礼です。受けとって貰えませんか?」
言えばナイレンは走らせているペンを止めて眉根を眉間に寄せた。
「こないだ…、んな礼を貰う事したかぁ?」
「薬です、薬。まんずい薬」
「あぁ」
思い出してくれたようで、ナイレンは少し瞳を開けた。同時に、先程止まったペンを半分白い紙の横に置く。
支える為に存在している椅子の背に身体を傾け、木が軋む音を鳴らして、こちらに向き直ってきた。
「こんな事しなくても構わねぇのに。気ぃ使わなくたっていいんだぞ」
「使ってないです」
「そうかぁ?」
「そーです」
片眉をあげて疑ってくる上司に少し口を尖らす。
解ってくれたからか、ナイレンは鼻から息を吐いた。そして年季が入った口周りのシワを、これみよがしに笑顔で見せてきた。その笑みに、エーリルの胸はくすぐったくなる。
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