番外編 05.54







「あれ?」

突っ立ったままエーリルが疑問符を口にした。


「あれ?」

下を向いたまま左右に首を振り、もう一度疑問符。



「あれ〜?」

正門脇に置いてある樽やら木箱を覗き込んで更にもう一度。

その彼女に、結界の外周り研修に付き合っていたエルヴィンが近づいた。



「なにしてんだ」
「ボールが無いんです」
「外に出る前に置いてったやつか」
「そです」
「ちゃんと捜したのかぁ?」
「ここに隠してったんだから間違いない、はず…です……」
「じゃあ、あるんじゃねぇか?先、駐屯地帰んぞ」
「わかりましたー」


エーリルを残して、エルヴィンは先行して駐留する屋敷に戻る隊員たちの輪に向かって行った。




「う〜ん」


誰も居なくなって、茶っ毛の後ろ姿は腕組をする。


「それって昼間ラピードがくわえてたボールの事か?」

「うわぁ!!!」


全身バタつかせてエーリルはフレンに振り返った。




「びびびびっくりしたぁっ!!!居たの!?誰も居ないと思ってたっ!!」
「ごめん」


酷く驚かせてしまったのだろう。動転している。それが面白くてフレンは微笑んでしまう。


「手伝うよ。ここに置いてったのか?」
「うん、そう」
「ちゃんと捜した?どこに置いてったんだ」

「ここ」


彼女が目線で示す場所をフレンも近づいて確認する。そこは樽と木箱の隙間。


「転がんないようにしといたんだけどなぁ〜」
「確かにあの大きさでこの隙間じゃ転がってはいかない」


捜しものは昼間ラピードと遊んだカラフル配色な球。


「あー、誰か持ってっちゃったのかなぁ」
「可能性は少なくないな。あれから四時間は経ってる」
「マジで?それで捨てられたとか?」
「なくはない話だ」



フレンの言葉にエーリルは息を止めた。
さぞ悔しいのだろう。その可能性にエーリルは地団駄を踏む。


「あー!持ってくなー!!」


装備が装備なだけに、剣やらブーツやらの金属音が身体に併せてガチャガチャ鳴り響く。

シゾンタニアの正門下で騎士が二人、いや正確には一人―――騒いでいるのを、店を畳んでいる店主や遅い買い出しの主婦、家に帰る子供が何事かと視線を送る。



「ラピード気に入ってたのにぃ〜」
「仕方ないな。見る人によってはゴミに見えるんだ。それよりエーリル」

自分を見る瞳に小声で話す。


「街の人が観てる。抑えて」

「ほほっ、」


夕日の影で黒に近い瞳は奇声をつぶやき黙りこくった。



「戻ろう。先輩方も戻られたし」

「だね〜。…あーもー持ってくなよぉ」



肩を落とし小声で不平を言い続ける彼女の足に――ぽんっと何かが当たった。


「あった」





エーリルと同じく下を向くとそこには捜し人ならず捜しボール。それとラピード。



「「ラピード」」



驚いてハモる声。
フレンとエーリルの背後にちょこんと、小さい躯体の持ち主は尻尾を揺らし座っていた。


「ラピどっから来たの?」


エーリルが屈んで仔犬を撫でる。
その傍にあるボールをフレンが拾えばたくさんの噛み跡。昼間より多くなっている。


「エーリル、これ」
「ん?」


それを見せると彼女はこちらが言いたい事を汲んでくれた。


「んふぅ。お・ま・え・かぁ〜〜!犯人はぁぁぁ!」


笑顔でわしゃわしゃと乱暴にラピードの首もとを撫でまくる。揺れてた尻尾が止まる。



「でもどうしてラピードが此処に…。犬舎に入れてきたはずなのに」
「誰かが門が閉め忘れたんじゃない?」
「騎士団員が雑に行動するとは考えにくい」
「たまには抜ける時も有るっしょ。ねぇ、ラッピ」
「ワン!」


エーリルの手から抜け、ラピードはフレンに向けて鳴きだした。尻尾をピンとはって数回吠える。


「ボール返せって」
「え?これか?」


彼女が言った通り、手の中の色彩豊かな球を差し出せばくわえて踵を返し、エーリルの金属製のブーツに押し付けた。


「遊べってか」


エーリルがボールに触れるとすんなり口を離し、ラピードは忙しなく飛んだり跳ねたり。


「言葉が解るみたいだ」
「ジーッと観てれば解るよ。この子たちも人間と一緒で感情も思考もあるもん。フレン動物飼ったこと無いの?」
「ない」
「ワン!」


ラピードがエーリルに吠える。
彼女の言葉をヒントにすれば催促とゆう事か。




「はいはい、分かったよー。ほんじゃ屋敷まで走るよ。いい?――フレンも走る?」
「僕は遠慮する」
「ほな先行くね。行くよラピード!」


言うや否や駆け出すエーリルに少し遅れて走り出すラピード。




「元気な奴らだな」


声に振り向けばナイレンとランバートがそこに居た。
隊長に敬礼と挨拶をしてエーリルを見れば、屋敷への道を曲がったところだった。ラピードに置い抜かされて何か叫んでいるがそこまでは聴こえない。




数年振りに逢った彼女は黙っていれば
『どこかのお嬢様』
に見えるのに、――どうしてか中身は個性的に成長していた。





(可愛くなったねって今度言ってみよう――)



その時彼女はどんな顔をするかと、楽しみに思う。

騎士として日々精進する事しかない頭に、フレンは思いついた意地悪をそっと抱いた。





05.54 --





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