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シゾンタニアの帝国騎士団駐屯地は、街の正門から入り、左側の坂を下りきった位置に構えている。



住居や商店等がある地区と隔離されているようにも見えるのは、

街に入って曲がってしまえば屋敷まで一本道の事と、

突き当たりのうえこの屋敷以外に建物がないという事と、

居住区と屋敷の地盤の高低差がかなり激しいからであろう。




なので駐屯地から空を見上げれば、切り立つ地面に建て並んでいる街もついでに眺められるというわけである。

見えるのは立地的にのっぺらとした造りの、外輪として成り立っている住居の壁しか無いが。

それをもし、駐屯地の屋敷から一望したいのであれば、中庭より屋敷裏の練兵場からの方がこれといって視界に障害が無いため良く見渡せられる。
日当たりも風通りも良いので、お茶とお菓子と本でもあれば一日此処で過ごしても良いかもしれない。

もっとも、訓練中の隊員と一緒に――となってしまっても気にならなければの話しだ。


今も日中訓練で広場には何人か人影が見える。

指導係の赤毛のヒスカに新米騎士の三人組。通常業務なので服装は軽装ではない。









「なにがそんなに楽しいのかねぇ」

「楽しいもなにも……っ、これは訓練だ」


ユーリは少しでも気持ちが晴れるように独り言のつもりでぼやいたのだったが、隣の相方は弓で矢を射りながらそのつぶやきに応えてきた。




「集中してるときは話し掛けないでくれ、ユーリ」



(話し掛けたんじゃねぇんだけどな――)

と。
彼が原因では無い苛立たしい気持ちを持て余しつつ、このままフレンを話し相手にさせるのにユーリは言葉を選んだ。




「喋ってる方が集中力が鍛えられるってもんだぜ」

「人の事より自分の訓練をしたらどうだ。手が止まってる」



が、それもすっぱり打ち切られる。

ヒスカから各自訓練を言い渡されたにも関わらず、ちんたら動くユーリは放っておき、フレンはロングボウの弦に矢筈を再度つがえた。
狙いを定めるのに目を凝らすフレンにユーリが面白くない顔をしていれば、いくつか離れた的に矢が射られた。


「よしっ!」


視界の外からの声に振り返れば―――よほど嬉しいのだろう、弓を持ちエーリルが片手でガッツポーズをして喜んでいる。





「さっきより的の中心に近づいてきてる。その調子その調子」


隣にヒスカを連れて――
正確にはヒスカがエーリルについて――
弓の訓練を指導している。



風もほぼ無風状態なので、日光で紫に発色している長い黒髪も自分の視界を遮ったりしない。

背後で矢が放たれた音を聴きながらそのままぼんやり彼女を眺めていれば、その視線に気づいたのか、矢を放つ構えのままこちらに顔を向けてきた。
彼女につられて、ユーリとフレンに背中を向ける形で立っているヒスカも振り返ってくる。





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あきゅろす。
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