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とりあえず、
怒ってるのは解った。

でも、何で怒ってんのかが



ぜんっぜん!!



解んないんだけどっ





胸中でエーリルは喚いた。

――背中を怒りの炎で燃えたぎらせ、少し前を歩いているユーリの背中に非難の眼差し浴びせながら。





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本当の所、この鬱憤に叫んでしまいたかった。
しかし今はそれも出来ずに押し黙るしかない。



石畳の坂道を下りながら、エーリルは揺れる黒髪ごとそのまま穴が開くくらい睨み続けていた。
そうでもしないと気が治まらなかった。

どうやらユーリは自分にご立腹されてるらしい。朝の堂々たる無視も、そうと解れば合点がいった。



(―――ん?)


下の方から視線を感じれば、ユーリの足元をうろちょろしている軍用犬ランバートの息子、ラピードがいつの間にか足を止めこちらを見ている。



生後1・2ヶ月くらいだろうか。

黒っぽい紫と白の毛色に付け加え、体の白色よりも鮮やかな白の鬣。口には木の枝をくわえている。

なぜか初対面時にユーリをとても気に入ったらしく、以来ユーリが外に出ると付いて回ってきていた。自分にも懐いてくれているが、ラピードの中ではユーリが最上級らしい。


仔犬に合わせこちらも足を止めると、纏っている装備具の擦れる音も必然的に止まる。
意識して見ればフレンと同じ瞳の色と判った。


(ラピードには関係無いからねぇ)


胸中では怒りがフツフツ煮えたっぎっているが、ニッコリ笑ってエーリルは応えた。それにラピードは気が済んだのか定位置(ユーリの足元)にとてとて戻っていく。



それに合わせて自分も歩きだす。

小さな後ろ姿はじつに可愛い。だがしかし、その可愛さもユーリへの怒りの前ではおかしな方向に変換する。




(あの木の枝。とったらユーリの足にさっきみたいに噛み付くんだろうなぁ〜。ほぅらラピードぉー、そこでガブッと、その足にガァブッと噛みつきな〜)


笑みはそのままで――控えめに小さな小さなお願いをする。



出来るならば今すぐユーリを問い詰めて、こんな気になる状態からスッキリしたい。そんなエーリルなのだが。


しかし、今は―――





「それで、さっき言ったのがこれね」

先頭でヒスカと共に歩いていたシャスティルが、目的地に着いたと説明を始めた。
何をしているかと言えば、新米騎士への街の内側での研修だ。



「この街に外へと繋がる門は二つ。さっきの正門とこっちの裏門よ。こっちは主に街の人が使ってるの。ほら、あそこ」

「ぶどう…ですか?」
「そっ、畑があるからね」



全員の一番後ろを歩いてきた為、エーリルからは門の外が見えない。

ヒスカとシャスティル(どっちがどっちか。名前は間違っていなかった)、それとフレンが立っている場所からはぶどう畑が見えるみたいだが。




(どんなん?)


生まれた好奇心に思わずうずうずする。


そうなれば先程まで感情を支配していたユーリへのイライラ感がぶどう畑にあっさりと、これまた気持ち良いくらいに負けた。


足が止まった事により更にラピードに纏わり付かれ、ユーリは「邪魔なんだよ、お前はっ」と不平を口にしている。そんな横をさっさと裏門へ―――興味深々とエーリルは通りすぎた。


シャスティルとフレンに頼み間に入れてもらえば、目の前が一気に開く。



ここが日陰なぶん、見えた景色は鮮明に飛び込んでくる。





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あきゅろす。
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