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少し前から鳥の囀りが聴こえていた。


もうそろそろ陽が昇る。
エーリルは窓際に腰を掛けて世界が変わっていく瞬間を待っていた。

幾分か経つと、闇に包まれていた世界は昇ってきた太陽の輝きによって光りに照らされていく。





自分の十二分に取れる睡眠時間を計算し、起きたい時間に計算した時間を逆算して、床に入ったはずだった。

満足な睡眠が取れる予定だった。
取りたかった。
しかし緊張の為、何度も目を覚まし、最後には寝るのは諦めたのだった。



動くにはまだ早過ぎる。
来るべき時間をのんびり待つのに、身体が冷えないよう、包まっていた布団を今一度エーリルは引き寄せた。


世界を通して映るのは、朝焼ける空。照られて輪郭が消える街。オレンジと白が折り重なり、太陽から生命の息吹の粒子がテルカ・リュミレースを照らす。もし世界が生まれ変われる瞬間があるとすればこの一瞬かもしれない。


ようやく陽は昇りきったらしく、彼女は窓の取っ手に手を掛けると、朝の空気に触れるべく窓を開く。

音が外に響かない様に慎重に開ければ、冷えた空気が部屋へと流れ込んできた。


「さむっ…」


シゾンタニアで観る、二度目の朝陽だった。







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「おはよう、フレン」


身嗜みを整え朝食だからと軽装の制服に着替え、一番乗りで食堂の扉を潜ったと思えば、先着がすでに居た。声をかければフレンは気づき、挨拶を交わす。


「はやいね」
「そっちこそ」


食事を厨房から受け取り、特にお気に入りの場所もないので、先に席に着いた彼の向かいに一言添えて座る。


「そういやユーリは?」
「まだ寝てる」
「あらま」


黒髪の幼なじみの名を出した途端、フレンは顔を歪ませた。
昨夜別れてから今に至るまでに、どうやら一悶着有ったようだ。




「いただきまーす」
「…………」


ご機嫌をすっかり損ねた様で、フレンは黙々としかめっ面で食事を採りつづける。その態度にエーリルは軽く困ってしまって、無言でパンを千切る。

怒っている人間との食事程、美味しくないモノはないのだ。
しかし美味いモノの前では意味を成さない場合も有る。


「うま」


満面の、感激した笑みで、エーリルはパンを食べ始めた。
決して見えないが、ハートが飛んでいてもおかしくはない。見えるわけないが、この笑顔の前だと見えそうである。



「ヤバい、幸せ、最高。こんな美味いパン毎日食べれるなんて幸せ過ぎる」



(いちいち気にしてたら、こっちが持たんし)

フレンの事、もちろん気にはなる。

しかし気にするが為、気を遣い過ぎてしまう自身もいる。なら、開き直ってしまえば善い。発端が自身であれば別だが。






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あきゅろす。
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